サービスの要なはずの「運用」で、手を抜く

去る3月、金融庁が多くの仮想通貨取引事業者に対して、業務改善命令などの行政処分を一斉に下しました。

ビットコインの台頭によって話題性が高まってきた仮想通貨ですが、今年に入って事業者にさまざまな課題が指摘されるようになりました。今回の業務改善命令を受けて、命令の内容に対応できず廃業することとした業者も出たようです。

言うまでもなく、仮想通貨はIT技術を基盤として取引されるものです。多くの仮想通貨取引事業者はこれまで、自社の技術の先進性を前面に出してアピールを行っていました。しかしそのわりに、どうやらシステム運用のノウハウや経験値が相当に低いことが、今回の騒動を通して露呈した印象があります。

多くのビジネスパーソンが、これは仮想通貨取引事業者の話であって自分の会社には関係ないと思っているかもしれません。しかし、今回の例のように、実質的にITが会社のビジネスの根幹を支える存在になっていながら、なぜかシステム運用への意識が低くリソースへの投資も手薄な企業は、業界を問わず珍しくありません。

大抵の企業は、ITを前面に打ち出した「サービス」をつくることには熱心です。サービスに組み込まれた先進的な技術を大きくアピールし、自社が優れていることを印象付けようとします。しかし一方で、そのサービスを顧客に向けて継続して「運用」しなければならないことについて、深く考えていない傾向があります。

経営する以上、顧客にサービスを買ってもらわなければなりません。その意味で、有益で使ってみたいと思わせる魅力が、提供するサービスにあるということは大変重要です。ただしそれは、実際に顧客が体験して初めて有益になるわけで、その顧客体験実現の主体となるのが、サービスの「運用」なのです。サービスを提供する企業が「運用」のクオリティを問わず、それどころか軽視するのは、まったく道理にかなっていません。

魂は細部に宿る、と言われますが、際立つ事業者はおよそ、顧客には直接見えない業務にまで自らのこだわりを浸透させる努力をしていると感じます。みなさんにも、モノはまだ買っていないのに、店に入っただけで質の高さを感じるような経験をしたことはないでしょうか。そういう会社は少なくとも、売る前だけ派手に注力し、売った後の実際の顧客体験の部分では見えないように手を抜く、という行動はとりません。

ITに疎い経営者ほど、システム運用がどのようなコスト構造になっているのか把握していません。そのため、運用コストは削減するものという意識になりやすい傾向があります。本当にその考え方でよいのか。本当の意味で顧客と自社との接点となるのは、マーケティングやサービスメニューよりも、サービスが実際に提供される「運用」であるはずです。ビジネスのしくみを意識する企業ならば、今回の件を他山の石として自らを顧みる必要があるのかもしれません。

次世代通信規格「5G」は、他力本願で寝て待て

先日の日本経済新聞では、次世代通信規格「5G」の商用化の動きについて、大きく報じられていました。

それによれば、去る2月26日に開幕した、世界最大のモバイル機器見本市「モバイル・ワールド・コングレス」において、世界各国の関連企業や事業者が、相次いで5Gの商用化計画の前倒しを明らかにしたとのことです。早いところでは2019年、日本では東京五輪に合わせた2020年の商用化が計画されています。

5Gには、理論速度で10Gbps以上(実行速度で1Gbps)、4Gに対して1000倍以上の通信大容量化、無線区間の遅延を1ミリ秒以下に抑える低遅延化、同時接続端末数が今の100倍に拡大、といった特徴があると言われています。この通信技術が実現すれば、これまで体感できなかったコンテンツの配信や通信システムの構築が可能となり、例えば4K映像配信、自動運転の隊列走行、遠隔診療や遠隔手術、複数の機器の遠隔操作、などが現実のものとなります。

このような感じで、マスコミも業界も盛り上げにかかっている感があります。ただし、5Gは4Gまでとは異なり、事業としてこれまでのようにスムーズに移行していくかどうか、多くの課題があるのも指摘されているところです。

その理由として、まずビジネスモデルの大いなるシフトが事業者に求められる可能性が高いことが挙げられます。これまでの携帯通信事業は、多くの割合をBtoCで稼いできました。しかし、5Gがどうしても必要となるような、インパクトのある一般顧客向けのサービスケースというのが、現状ではだれも思いついていないという問題があるのです。

4K動画配信とは言っていますが、多くの人々は、いまの4Gの通信でYouTubeを見る程度で満足しています。4K動画でなければ困ると思っている一般の人は、あまりいないのです。万一4Gより5Gのほうが通信料金が高いとなれば、ほとんどの人々は4Gのままでよいと考えるでしょう。ゲームコンテンツなどは通信容量が大きくなることで進化するでしょうが、そのユーザー層は大勢を占めるには至りません。

実は、5Gの技術的インパクトがより大きいのは、高速・大容量であることよりも、低遅延・同時接続数拡大のほうなのです。そしてこれらの要件は、対法人のサービスケースにおいてより有効です。現在取り上げられている5Gの応用例をよくよく眺めると、ほとんどが法人利用に絡んだものであるのは、それを端的に示しています。

つまり、事業者は5Gをビジネスとして軌道に乗せようとするなら、これまでのようにBtoCで稼ぐのではなく、BtoBで大きく稼ぐ仕組みを作り上げなければならないわけです。

それなのに、実は法人向けの目玉技術ともいえる低遅延・同時接続数拡大は、2022年以降での対応と言われています。これは主に、端末から基地局までのアクセスネットワークだけでなく、通信網のコアネットワークまで含めて設備増強する必要があるためです。

しかも、5Gは4Gよりも高い周波数帯を利用することになるということで、その場合、電波が遠くまで飛びません。したがって基地局をより多く配置する運用となり、通信網を構築する投資額は必然的に増加することになります。これを回収すべくビジネスを成立させることが要求されるわけです。

稼げない限り投資が続かない。でも稼ぐキモであるBtoBは時間がかかる。そうかといってBtoCのサービスアイデアがない。過去の延長線ではなく5Gとしてビジネスが成立していかない限り、5Gへの進化はままならないという状況なのです。

そんな事情もあって、国内の事業者は、アイデアコンテストを開いたり、ベンチャー企業と連携したりと、他人のアタマも使いながら、なんとかBtoCのサービスアイデアをひねり出そうと格闘しているという状況です。

こうした課題に対して解決策不在のままなら、速くなるだけの ”4Gダッシュ” のようなサービスに留まるか、場合によっては、都内でしか使えない高価な通信サービスになってしまう可能性さえ考えられます。

何らかのブレークスルーがない限り、一般の企業としては、実証実験などは大企業にお任せするとして、少なくとも2022年までは傍目から様子を窺っておくほうがよろしいように、個人的には感じているところです。この件において、利用が後発になって損をすることはおそらくないでしょう。

それ、本当に「試す」のか

先月、「試す組織」の重要性について述べましたが、実はひとつ注意すべき点があります。1か月間もったいぶっていたわけではないのですが、ここで取り上げておきたいと思います。

結論から申し上げれば、いくらラクに試せるからといって、なんでも自由に試せばよいというものではない、ということです。

もちろん、新技術というものは、その黎明期においては実用レベルの安定感がなく、信頼性の面で問題があることがしばしばあります。単なるバズワードで終わってしまう技術、有望だが流動的なため取り組むには時期尚早な技術、などもあります。そうそうすぐに飛びつけばよいものではありません。

ここで申し上げたいのはそういうことではありません。仮に、トレンドとして本物だと確信できる技術だったとしても、敢えてやらない選択がありえます。

その取捨選択の基準となるものは何か。それは、これまで自社がビジネスの基礎としてきたはずである、顧客に対する価値提供のシナリオです。

ビジネスを遂行するあらゆる取り組みは、自社が顧客に提供したい価値のもとで、すべてにおいて一貫性が保たれていることが重要です。しくみがうまく動いている企業はどこでも、一貫したスジが通っているものです。まるで人体のメカニズムのごとく精密かつ無駄がない。そういうオペレーションが実践されている会社を目指すべきだと思います。

従って、新しく取り込む概念もまた、自社の一貫した価値提供のシナリオを補強するようなものでなければいけません。補強し得ないものなのであれば、どれだけマスコミが持ち上げていようが、競合他社が取り組んで成功していようが、自らはやらない判断をすべきでしょう。スジが通っているなら、その判断は容易であるはずです。

このような判断は、組織が一貫したポリシーのもとで下す必要があります。「試す」前に、その判断のゲートを通すようにする仕組みをつくり、判断を行う権限を誰かに与え、判断が実行されるようにします。判断の権限者は社長自身かもしれませんし、会社として大事にしたい価値提供のありかたを熟知した専任者(最低限、会社幹部でしょう)に任せるのかもしれません。

やり方はともかく、これを無策で放置すれば、会社が堅持すべき価値提供の一貫性は簡単に崩れていきます。同じ会社の人間であっても、よほど経営者が価値観の社内への浸透を日々意識して励行していないかぎり、社員のほとんどはそんなシナリオなどあまり意識せずに、目の前の業務だけを見て遂行するはずです。こと技術者は、新規性のある技術には興味津々、特に話題性の高い技術にはいち早く触ってみたいと考えます。それが会社のカネでできるのなら、こんなに幸せなことはないと思うでしょう。

試すのか試さないのか、誰かが一定の基準で客観的に判断しない限り、会社がよりどころとするシナリオは、経営者の知らないところから少しずつ崩れていってしまうということです。これは社内にいるとわかりにくいですが、顧客など外部の人間にはとてもよく見えるものです。

気軽に様々なものを試せる時代だからこそ、スジに合わないものは明確に排除する。それが的確に判断されるような組織上のしくみを用意しておく。それができていれば、会社が出したい価値提供のありかたを常に考えて行動する、有効な「試す組織」となるに違いありません。

今年こそ「試す組織」を

新しい年を迎え、来る新年度の取り組みについて具体的に固めていくような時期である企業が、多いかもしれません。

ここ最近、”PoC”ということばがよく聞かれるようになっています。これは ”Proof of Concept” の略で、端的に言えば、新規の技術や仕組みの実証実験のことです。新たな取り組みを進める場合、まず小さく始めるのは基本ですが、それを最近では PoC と称しています。大手企業・ベンチャー企業といった大小を問わず、また業種業態を問わず、様々な PoC が行われているようです。

その要因として、IT関連の技術について気軽に実験できる環境が充実してきたという側面があるだろうと思います。

かつては、新しい技術が出てきたとしても、それを「試しに使う」というのは現実的ではありませんでした。気軽に試すことができなければ、新技術は敷居の高いものというイメージになりやすいものです。そのうち自らとは遠いものと認識するようになってしまうのも無理はなかったかもしれません。

ところが今では、相当にハードル低く、新しい技術を試すことができるようになっています。機械学習、ブロックチェーン、IoT、BI、認識技術 … かなりの種類の技術要素が、安価な料金か、場合によっては無料で、条件はあることが多いものの利用できるようになっています。最近では、量子コンピュータまでがクラウドで一般利用可能になるとのニュースも報じられました。

わたしは8年ほど前から「試す組織」の重要性を指摘してきました。「試す組織」とは、ビジネスを遂行する業務とは別に、企業が価値提供するうえで近い将来役立つと思われる概念や技術を探知し、他社より早く業務へ実用化する目的で活動する、企画チーム体制のことです。そのために、変化する外部環境や新技術の動向などを自ら学習し、トレンドやソリューションを見極める目利き力を養いながら、様々なことを「試す」取り組みを行います。

わたしが指摘し始めた頃に、こうした取り組みを実際に推進している日本の企業の事例は、一部の大企業における小規模なものだけでした。資金力がなせる業という側面も否めなかったと思います。しかし今では、中小規模でも技術にフォーカスを置く企業ではかなり自然に行われています。すでに、もの珍しい取り組みではないのです。

このような状況においてはすでに、いかに「技術」という食材をうまく選択し料理するのかというアイデア勝負の時代にあると言えます。技術そのものではなく、選び組み合わせるアイデアの妙で競っていく時代なのです。それにもかかわらず、アイデアを出すどころか、試すこともしない企業は、提供価値の特色も出せず競争力が低下するだけでしょう。

「試す」仕組みがまだない企業の経営者の方々におかれては、ぜひ今年は「試す組織」を真剣に考える年にしていただきたいと思います。

「提供する価値を見直す」ことの先にあるもの

当社の支援ポリシーについて説明をする時、必ず強調することがあります。それは、「顧客に対する価値の提供を軸にしてビジネスを考える」ということです。自社を使ってもらいたい顧客は誰なのか、その顧客にどのように価値を感じてもらいたいのか。そして実際そういう業務になっているのか。ビジネスのしくみは価値提供のありかたで決まるし、そこに信念がないのでは競争力のあるしくみにはならない。こういうことを申し上げています。

そういう話をすると、既存事業に課題意識をもって話を聞いてくださっている経営者の中から、「それは考える必要がある」という反応をいただくことがあります。

お察しするに、自社のビジネスが提供する価値を問い直すという試みは、場合によっては現状の否定につながるかもしれない、という想像が浮かんでくるからなのかもしれません。自信があるのなら問い直しても何の問題もないはずですが、寝た子を起こすような怖さや混乱を感じる向きもあるのでしょう。

価値を見直すことで必ずしも現状が否定されるわけではありませんが、そのようなケースも実際に経験があります。ただし、それが起こったのは必然とも思えます。

そもそも競争力とは何でしょうか。端的には、ライバル企業が存在してもなお自社が選ばれる力のことです。競争障壁については経営学的にテクニカルに語られるものもありますが、結局のところ、何らかの理由によって顧客に選ばれる会社が強いと言われる、ということです。

ただし、すべての顧客に好まれる商品やサービスを生み出すことは不可能と言ってよいと思います。そうだとすれば、買ってもらいたい顧客は提供する側が「特定」しなければなりません。特定の人たちに向けて作り込まなければ、好きになってもらいにくいからです。価値の提供スタイルがはっきりしている会社は、顧客のペルソナが実に明快です。

一方で、求められるサービスを何でも提供しようとする会社があります。表向きは、顧客に応える充実したサービスを幅広く提供したいと考えての行動なのでしょうが、実は深層心理で、顧客を特定して絞ってしまうことを怖がっているのだと思います。

企業規模に比例して、投下できるリソースは決まります。資本力のある大企業ならいざ知らず、限定された能力であれば、何でもやりますと商品やサービスを展開して、そのすべてにおいて他社より優れたものにするのは無理があります。結果として、どの商品やサービスも他社並みかそれ以下になり、顧客はそれに価値を感じないのです。価値を感じなければ、顧客は買いません。

何でも提供しようとする企業ほど、価値を見なおすことに恐怖を感じることでしょう。しかし、見直しをかけたその先にあるものを見据えて敢えて火中の栗を拾うだけの価値は、十分にあると考えます。

そうして、会社が提供すべき価値のありかたを見直すことで競争力を高め、成長軌道に乗った事例は、いくらでもあります。というより、わたしはそれしか知りません。顧客に強く支持されている企業はみな「提供する価値」にこだわっているから、分析結果としてそのようにお伝えしているわけです。

最近も、こんな中小企業の事例を知りました。自社はどうありたいのかを見直し、苦労しながらその仕組みを構築して、ブームにも乗って売上は約6倍、今では会社訪問されるような会社になったそうです。

競争力とは価値提供のありかたで決まると、わたしは考えています。小難しい戦略の話の前にまずはそこにこだわり、顧客のことを徹底的に考え抜きましょう。

先が読めない時代に、どういう会社を目指すか

最近のビジネス動向に触れていると、さまざまな分野で、時代の端境期にあるように感じられます。その要因のひとつになっているのは、ITを中心とした技術の進展ですが、それがひとつではなく多くの分野で、横断的かつ複合的に影響を及ぼしています。この先どういう時代がやってくるのか、長期的にはまったく読めないのが、いま現在ではないでしょうか。

例えば、自動車業界は興味深い分野だと思います。わたしは2012年初めにも本コラムで、「そろそろ『自動車会社』を辞めることを考えるべきときが来ているのではないか」と書きましたが、6年近くたった今となってはさらに進化した先行きが妄想できるようになってきました。

例えば、こんな想像も、ひとつのシナリオです。もし、レベル4と呼ばれる完全自動運転が実現し、一般道でもオートパイロットで運転されるようになればどうなるか。ほとんどの消費者は、車を買わなくなるかもしれません。使いたくなった時に、アプリで呼び出すだけ。呼び出せば、時間ちょうどに家の前まで自動でやってきて、用事が済むと、自動で帰っていきます。自ら所有する必要などありません。バスもタクシーも、事業にならなくなるかもしれません。個人は駐車場も不要になり、それを生業にする不動産ビジネスも方向転換を迫られるかもしれません。

いまの人たちが電車に乗るときに気にしないように、クルマに乗るにあたって「操る喜び」を気にする人も、そのうちほとんどいなくなるかもしれません。それよりも、乗る楽しさを左右するのは、車内で展開されるアプリケーションのほうになります。

クルマに乗る目的が、点から点への移動だけではなく、クーポンをくれるとか、自分の好みのイベントやおもしろい場所に勝手に連れて行ってくれる、というものに変わっていくかもしれません。楽しさを提供するアプリケーションをいかに創出するか、その楽しさを生み出すために必要なデータやログをいかに収集し分析するか。それがモノをいうのだとしたら、自動車そのものは、ソフトウェア開発会社かサービス会社の「部品」になるかもしれません。

そして、消費者にとって、内燃機関かハイブリッドかEVかなど、どうでもよいことになり、今後どこかでエンジン技術の向上はあまり求められなくなる、つまりコモディティ化するかもしれません。

これとは違う未来も、想像できるでしょう。しかし、なにが本当なのかは、誰にも読めない状況だと思います。経営する人間にとっては、興味深いけれど非常にやっかいな世の中です。

こんな状況で取れる道は、おそらく2つではないかと思います。ひとつは、あらゆる構造変化に柔軟に対応できるような、変わり身の速い事業と組織を維持すること。もうひとつは、自分がゲームチェンジャーになって未来をつくること。どちらもなかなか難しい注文です。ただし、自らの顧客を定め、その顧客に価値を提供することを目指すという点は、時代がどのようになっても揺らぐことはないと思います。

大事なのはCIOなのか、CDOなのか

最近、CDO(Chief Digital Officer)という役職が話題に上るのを見かけます。この役職を置く大手企業がいくつか出てきているそうです。

CDOは、わたしの認識が正しければ、IT 系の大手リサーチ会社である米ガートナーが提唱し始めた役職名で、簡単に言えば、企業においてビジネスのデジタル化を推進する責任をもつ経営幹部と位置づけれられています。

これに関連するところでは従来から CIO という役職があり、CIO が IT に関する領域の責任を持つとされていました。そこにまた、CDO なる役職名が登場し、何がどう異なるのか、きちんと理解しておく必要があるのか、自社に必要なのか、よくわからない経営者の方もいるのではないでしょうか。

結論から申し上げれば、他人との会話にお付き合いできる程度に知っておけば十分だと、わたしは思います。業界お得意の話題づくりに振り回されるのは、本質的ではありません。

一般的な説明においては、まず CIO は、企業が従来から管理してきたバックエンドの情報システムを中心に、その運営に責任を持つものとされています。かたや CDO は、顧客に向けたフロントエンドに注目し、デジタル化による顧客体験を提供する「(広義での)サービス」を提供するシステムを構成し、その運営に責任を持つというイメージで語られています。

ここからはわたしの個人的な見解ですが、CIO とは、Chief Information Officer の略であるのが一般的とされますが、同時に Chief Innovation Officer とも言えるとされていました。そして、CDO という言葉が出てくる以前においては、いま CDO が司るとされている領域の活動には、CIO が貢献することが期待されていました。

ところが、現実の CIO がそのようなイノベーティブな成果を実現するケースはほとんど見受けられませんでした。こと日本においては、CIO と呼ばれながら、例えば実は経営会議のメンバーではない等、情報システム部長と変わらないような職務権限であるケースも多かったように思われます。そもそも「CIO」という役職名が企業にそれほど広がらず、IT 関係の幹部を紹介する際にマスコミも苦し紛れに「実質的な CIO」などと称する例もよく見かけます。

CIO って結局は IT 部門の責任者なのね、という、本当はそんなはずではなかった認識が定着する一方で、やはりビジネスの本質的な領域への IT の浸食は止まりませんでした。新興企業を中心に、デジタル的な思考をベースとしたビジネス基盤で事業を展開するケースが後を絶ちません。おそらく今後、それが当たり前になるでしょう。

そうした中で出てきたのが、CDO です。根底には、従来型の情報システム整備の考え方と、デジタルビジネス推進の考え方は、同じにはできないという主張があります。この主張については、わたしが以前にブログで記したとおり、認識が確定しているわけではありません。

こうして考えてみると、要するに重要なことは、企業自身が、自社のデジタルの責任者にどのような活動で成果を挙げてもらうのかを明確にし、その役割と権限をその企業なりに定義することではないかと思います。それさえできていれば、CIO でも CDO でも、IT 責任者でも、それこそ CEO でも、名前など何でも構わないのではないでしょうか。

会社の基幹機能をどのようにカテゴライズし、幹部が会社のどのような基幹機能を担うのか。デジタルはそこにどう絡むのか。これを考えるほうが、より本質に近づくはずです。トレンディなことばを気にしすぎるのは、もうやめましょう。それでメディアに乗っかりたいのなら別ですが。

生産性向上するなら、パソコンは安物で

最近、働き方改革、生産性向上、テレワークなどといったキーワードが世間をにぎわせています。今回はそのようなときに課題にもなりやすい、パソコンの話です。

パソコンはコモディティ化しており、できるだけコストをかけたくないのが通常だと思います。ただしそうは言っても、あまりに粗末な端末では、仕事の効率が上がるどころか下がるリスクもあります。

わたしはパソコンに関しては、8万円程度の端末を、数年おきに買い替えながら使うのが現時点では最善と考えています。(お金がある会社であれば、もっとよい選択肢もありますが)

その理由はこうです。まずパソコンには、消耗品と考えるべき性質があります。たとえば、長く使うほど、特にハードディスクが壊れやすくなります。容易に想像できることですが、壊れるともっとも困るのが、このハードディスクです。わたしにも経験がありますが、故障は突然起こります。いきなりデータが読み出せなくなり、正しくバックアップを取っていたとしても、完全に作業環境を元通りにするのに結局は何日も費やし、その間仕事の効率は著しく下がります。

壊れるまで使うことは、パソコンに関しては美徳でも何でもありません。移行するなら壊れた時ではなく、新旧端末を一定期間並行利用できるのが理想です。

また、長く使うことで、パソコンは必ずと言っていいほど動作が重くなっていきます。反応が遅い、操作コマンドが終わらない、立ち上げが遅い、などの症状です。どれだけ高価な端末であっても同様です。これにはさまざまな技術的理由がありますが、その理由が分かったところで、動作が重くなることは避けがたいものがあります。つまり、長く使うほどに、パソコンでの作業効率は落ちるわけです。そうなると、何のために仕事にパソコンを利用しているのか、意味が薄れていきます。

それに加えて、いまだにパソコンも進化は続けています。通常の業務利用であれば使い勝手に変化はあまり感じないかもしれませんが、コストパフォーマンスは今でも向上しています。同じ価格で比較すれば、最新の端末のほうが確実に性能や快適性が上です。最新の端末を使っている企業と、長年端末を変えずにいる企業と、執務環境の良さは比べるまでもありません。些細なことに思えるかもしれませんが、少しの差が何百人、何千時間と積み重なると、相当な差になって現れるものです。我慢して使い続けるものではありません。

長く使うことを前提にして上記の問題を回避する対策は、いくつか考えられるでしょう。しかしながら、パソコンがコモディティ化している以上、パソコンの調達、利用、乗換にできるだけ面倒はかけないというのが、重要ではないでしょうか。その意味で、安く調達し、変な細工をせずそのまま使い、さっさと乗り換える、という運用をしたほうがベターではないかと思うのです。

8万円程度のパソコンでは安かろう悪かろうではないのではないか、と心配する向きがあるかもしれません。もちろん、その程度の価格では最高のスペックではなく、中程度以下です。重いソフトを動かす、多くのソフトをインストールする、等の場合は性能の問題が出る可能性があります。しかし、オフィスソフトとウイルス対策ソフトとブラウザーを導入して、よくある事務作業をする程度であれば、現在売られている新品の端末ならまったく支障はありません。さっさと乗り換えることを優先するなら多少は性能に目をつぶろう、ということです。

少しだけ財務的な話をするなら、10万円未満のパソコンなら消耗品として調達ができ、資産にする必要がありません。固定資産扱いせずに済むのは、台数が多い企業ほどプラスなのではないでしょうか。

パソコンに関しては、中には敢えて端末をすべて共用にして一人1台配布しない企業もありますし、原則としてWindowsを採用しない企業もあります。どのように使うのが環境上および業務上でベストなのかは企業によって異なり、単に他社事例をそのまま参考にするのは危険です。端末導入には調整できる選択肢が相当にあり難しいところはありますが、自社にとってベストで持続可能な業務環境を探ってほしいところです。

 

CxO人材が欲しい会社が、考えるべきこと

最近、あるスタートアップ企業が躍進しているという話を聞きました。

その企業は、当初は事業の拡大にいろいろと苦労していたそうですが、あるとき大手企業の幹部OBを紹介され、その人物に経営に参画してもらうことになりました。それをきっかけに、その人物が培った人脈をフル活用して次々と人が人を呼び、最近では大手企業との提携話が面白いように決まっていく状態になっているようです。

経営者ご自身の人徳もあろうかと思いますが、こうしたパターンは、スタートアップがいわゆる「1→10」に成長していくシナリオとして典型的かつ有力なものだと思います。

こうした事例もあるためか、多くの企業で経営者が幹部人材を探すとき、およそ重視するのが「前職での地位」や「持っている人脈」です。

それはそれで、特に営業面では重要な経歴だろうと思いますが、ことCOO、CIO、CTO、CDOのような幹部であれば、ステータスだけで善し悪しを判断するのは慎重であるべきではないかと思います。

業務構造の変革、システムの適用、それに伴う技術の採用、というのは、素晴らしい経歴があればできるというものではありません。経営者のツルの一声で始めたIT導入がおよそすごい成果にはならない例が多いことからも、これは明らかです。

このコラムでも何度も申し上げていますが、ビジネスを強くするには、慎重かつ緻密に、ビジネスのしくみをデザインすることが必要です。こうしたデザインを実行するには、社外の競争環境のみならず、社内の業務環境や企業文化を熟知していることが求められるのは、言うまでもありません。

ですから、外部から来た人材は、まず社内を知ることから始める必要があります。わたしなども、初めて関わるお客さまのところでまずすることは、社内の各部門を回って話を聞き、情報を集めて現状を知ることです。

結構地道で泥臭い作業ですが、欠かすことはできません。なぜなら、自分の目で現場の現実を見ないかぎり、真の課題は理解できないからです。誤解を恐れずに言えば、現場で働く方たちの「ことば」さえ信じないこともあります。時に、言っていることと実際にやっていることが異なる場合もあるからです。

業務やシステムを管轄する幹部に求められる力とは、こうした実地での情報収集、状況把握、現状分析、技術への知見などを総合し、その企業が目指す方針を実現できるビジネスのしくみをデザインする能力、さらにそれを実現まで持っていける能力ではないでしょうか。

この能力は、前職の地位や人脈が保証してくれるものではありません。かりに実績があるとしても、その実績を挙げるに至った経緯をよく聞いてみる必要があるだろうと思います。単に誰かの言うとおりにしただけかもしれません。

また、特に技術、ITといった分野は、デザインの意識が低い人ほど技術的な「理想」を追い求めてしまいがちであることも、よく念頭に置くべきだと思います。

最近ですと、「ビッグデータ」とか「AI」の経験を持つ専門人材が欲しい、という話を小耳にはさむことがありますが、危険な例です。ITはある意味、その道に明るい人間にとってはわりに手柄を立てやすい分野とも考えられます。そのようにして採用した外部招へいの幹部は、その分野だけで自分の存在価値を示そうと動くでしょう。しかし、技術にフォーカスするのみでビジネスのしくみを緻密にデザインしようとはしないときに、または全体俯瞰でしくみを考えている人が会社に誰もいないときに、それはその企業にとって、どこか歯車のずれた取り組みになっていくことが往々にしてあります。あるITを導入してはみたけれど、現場が使いこなせずに結局お荷物になったというような話、聞いたことがないでしょうか。

そして、その問題に最初のうちは誰も気づきません。

くどいようですが、業務改革やシステム導入では、あらゆる観点から理想と現実をうまく埋める「デザイン」が、最も大切です。CxOを探すのなら、そういうことを重視し、偏りのない知見を発揮できる人物かどうかを、ぜひ見抜いてください。

ビジネスのしくみがダメだとこうなる、格好の事例

日経ビジネスが、去る5月29日発行の特集で、ヤマト運輸のビジネスの実情について取材した記事を掲載しました。

タイトルは「ヤマトの誤算 本当に人手不足のせいなのか」。世間では、アマゾンをはじめとしたECビジネスの急速な拡大に応じてきた宅配業界の人手不足が深刻化したことで、同業界の企業の勤務環境が悪化した、という同情的な向きで報じられていました。日経ビジネスの記事は、こうした風潮が本当なのか考察しよう、という趣旨でした。

実はわたしは、再配達が問題になっているなどの話が出始めた段階から、「本当に人手不足のせいなのか」と考えていました。それだけに、これまでのマスコミの報道には違和感をもっていたので、日経ビジネスの同特集は大変興味深く拝見しました。

わたしの考えていたことは、単純なことです。大変僭越ですが、これは経営の方針選択の誤りだと考えていました。

いかなる事業でも、その目的の中心は「顧客に対する価値の提供」です。提供したい価値を具体的に据えたなら、その価値をいかにして顧客に体験してもらい、実際に価値を感じてもらうかをデザインします。それに合わせて、顧客から自然なかたちで利益を回収するしくみを織り込みます。

わたしはこれらの仕組みをそれぞれ、サービス・プレゼンテーションと利益ロジックと呼んでいますが、この2つは表裏一体で作り込むべき仕組みです。

これらがうまくデザインできている事業は、価値を評価してくれる顧客が増えれば増えるほど、利益を上げていくことになります。当然ですが、顧客が増加の一途をたどれば、それを受け入れる組織も規模を拡大させる必要があります。それもまた、デザインの一部(組織体制のデザイン)です。

ではヤマト運輸はどうでしょうか。同社の宅配便取扱個数は、ここ何十年もの間、右肩上がりで増加してきました。一方で、同社の営業利益は2005年頃から頭打ちになっています。

よく聞いてみると、アマゾンなどの大口顧客に対して割引を適用していたそうです。そもそも大口割引というのは、まとめて取り扱えば業務面で効率化できるから割引が可能という、利益ロジックのからくりがあります。例えば製造業なら、ある製品をまとめて発注してくれれば、生産ラインを切り替えずにまとめて製造できるから、作る側が楽できる、部材もまとめて購入できるからコストが下がる、だから価格を下げますよ、という話です。

では宅配便はどうか。ちょっと想像しただけでも、そのような業務ではないと思いつきます。小口業者なら、まとめて同じ配送先に出してくれれば効率化になるかもしれません。当然、ヤマトはそれに当てはまらないほどの大企業です。一定の取り扱い規模以上になると、荷物が増えただけ面倒が増えるシナリオにしかならないはずです。それなのに大口割引とは、まともなビジネスのしくみが成立するとは思えません。

わたしはこんなことを考えて、ビジネスのしくみが破たんしていることをほぼ確信していました。

業界の事情、競争環境など、わたしが知らないいろいろな内情はあるのだろうと推察します。しかし、いかなる理由があっても、ビジネスのしくみがまともでない状態では、独自の価値は提供できません。経営が追うべきは、シェアでも取扱数量でもなく、顧客への提供価値だと思います。そこから外れた途端、ビジネスのしくみが崩れ、事業が崩れるという事例になってしまったように、わたしは感じています。

顧客への提供価値を追おうとすれば、ビジネスのしかたに「譲れない一線」が生まれるものです。一方、売上・利益・シェアを追おうとすると、およそそのビジネスには偏りが生まれ、結果として疲弊する方向に進むものだと、わたしは考えています。業界トップでなく、価値を認めてくれるコアな顧客を追い求めようとするのは、経営として甘いでしょうか。