がんばれ、「第4の携帯電話事業者」

楽天モバイルが先日、現在行っている携帯電話の試験サービスについて、新たに2万人の利用者を追加で募集すると発表しました(募集は既に終了)。限定地域に居住する人が対象で、今年3月末までの試験期間中、国内の音声通話やデータ通信、国際電話、国際ローミングなどが無料で利用できるということです。

同社は当初、通信サービスの本格開始を2019年10月からとしていましたが、その直前になって開始を2020年4月に延期し、その間は試験サービス期間として、利用者を限定してサービスを無料提供してきました。これによってインフラやシステムの課題を洗い出し、解決したいという考えのようです。

無料提供とはいえ、実ユーザーを使って問題を出させるとは何事か、と捉える向きもあるでしょう。5000人という限定利用であるにもかかわらず、昨年12月には3時間にわたる通信障害を起こしてしまい、総務省から業務改善のプレッシャーが強くかかっていると言われます。

この状況を見て、利用者としては当然、そのクオリティに懸念を持つだろうと思います。わたしもそう思います。しかし個人的には、同社にはぜひこのハードルを乗り越えて成功してほしいと、願っているところです。

その理由のひとつは、業界の活性化の期待です。現在の通信業界は、良くも悪くも「安定」しています。安定したサービスを提供していることは大いに喜ばしいことですが、一方で料金は常に横並び、というよりも、高値安定の状態です。毎月1万円にもなろうかという金額を、多くの利用者が何の疑問もなく支払っているのが、わたしには不思議でなりません。

料金プランを観察するとわかりますが、複雑怪奇でわかりにくいことに隠れて、あまり使わない利用者のことは考慮から外したプランしかないのが実態です。高齢者などがガラケーからスマホに乗り換えないのは、スマホが難しいからというより、月額料金が上がってしまうからです。それは見ないふりをし、「ガラケーは古い」という風潮を助長して、そもそもガラケー端末を売らなくすることで選択肢をなくしてスマホへ乗り換えさせている、というのが本音のところではないのかと、わたしは見ています。

古いというのなら、進化させればよいだけのことです。これまでもそうしてきたはずです。そして数年もすれば、ガラケーを彷彿とさせる「折り畳み式のスマホ」が発売されるでしょう。

(追記: 2/12付の日経新聞によれば、サムスン電子が、縦方向に折りたためるスマホを2020年2月に発売すると発表しました。)

3大キャリアはいずれも、いま企業買収や出資にいそしんでいますが、節操のない資金拠出を可能にしているのは、高止まりしている通信料金がもたらす利益です。

政府が「利益の取り過ぎだ」と問題視しているのは、ご承知のとおりです。総務省が楽天モバイルにプレッシャーをかけるのは、もちろん業務改善の意味合いが大きいでしょうが、一方で、ちゃんと起ち上がってくれないと業界の競争が活性化しないので困る、という期待もあろうかと思います。

わたしが楽天モバイルの成功を願う別の理由は、彼らが構築しようとしているインフラにあります。世界的に見ても前例がない、非常に技術レベルの高いことを実現しようとしているのです。

高価な専用ハードウェアで構成するのが通例であるところを、汎用サーバー群で構成することで設備投資額を桁違いに抑制、その基盤上ではネットワークの機能を仮想化して稼働させるとしています。

機能を仮想化するということには、クラウドサービスのように運用を柔軟かつ低コストで行えるという利点があります。斬新なサービスをどこよりも早い準備期間で実装し、提供できる可能性を秘めたインフラです。もし安定稼働を実現できたなら、既存キャリアはその運用の効率性や柔軟性で太刀打ちできなくなるかもしれません。

もちろん、基地局の展開が遅い、サービスに有利な周波数帯を持たない、など様々な面で同社には課題が指摘されています。しかし、高いハードルをぜひ乗り越え、インパクトのあるサービスを世間に打ち出して、業界に旋風を巻き起こしてほしいと、個人的には熱烈応援したい気持ちです。

次世代通信規格「5G」は、他力本願で寝て待て

先日の日本経済新聞では、次世代通信規格「5G」の商用化の動きについて、大きく報じられていました。

それによれば、去る2月26日に開幕した、世界最大のモバイル機器見本市「モバイル・ワールド・コングレス」において、世界各国の関連企業や事業者が、相次いで5Gの商用化計画の前倒しを明らかにしたとのことです。早いところでは2019年、日本では東京五輪に合わせた2020年の商用化が計画されています。

5Gには、理論速度で10Gbps以上(実行速度で1Gbps)、4Gに対して1000倍以上の通信大容量化、無線区間の遅延を1ミリ秒以下に抑える低遅延化、同時接続端末数が今の100倍に拡大、といった特徴があると言われています。この通信技術が実現すれば、これまで体感できなかったコンテンツの配信や通信システムの構築が可能となり、例えば4K映像配信、自動運転の隊列走行、遠隔診療や遠隔手術、複数の機器の遠隔操作、などが現実のものとなります。

このような感じで、マスコミも業界も盛り上げにかかっている感があります。ただし、5Gは4Gまでとは異なり、事業としてこれまでのようにスムーズに移行していくかどうか、多くの課題があるのも指摘されているところです。

その理由として、まずビジネスモデルの大いなるシフトが事業者に求められる可能性が高いことが挙げられます。これまでの携帯通信事業は、多くの割合をBtoCで稼いできました。しかし、5Gがどうしても必要となるような、インパクトのある一般顧客向けのサービスケースというのが、現状ではだれも思いついていないという問題があるのです。

4K動画配信とは言っていますが、多くの人々は、いまの4Gの通信でYouTubeを見る程度で満足しています。4K動画でなければ困ると思っている一般の人は、あまりいないのです。万一4Gより5Gのほうが通信料金が高いとなれば、ほとんどの人々は4Gのままでよいと考えるでしょう。ゲームコンテンツなどは通信容量が大きくなることで進化するでしょうが、そのユーザー層は大勢を占めるには至りません。

実は、5Gの技術的インパクトがより大きいのは、高速・大容量であることよりも、低遅延・同時接続数拡大のほうなのです。そしてこれらの要件は、対法人のサービスケースにおいてより有効です。現在取り上げられている5Gの応用例をよくよく眺めると、ほとんどが法人利用に絡んだものであるのは、それを端的に示しています。

つまり、事業者は5Gをビジネスとして軌道に乗せようとするなら、これまでのようにBtoCで稼ぐのではなく、BtoBで大きく稼ぐ仕組みを作り上げなければならないわけです。

それなのに、実は法人向けの目玉技術ともいえる低遅延・同時接続数拡大は、2022年以降での対応と言われています。これは主に、端末から基地局までのアクセスネットワークだけでなく、通信網のコアネットワークまで含めて設備増強する必要があるためです。

しかも、5Gは4Gよりも高い周波数帯を利用することになるということで、その場合、電波が遠くまで飛びません。したがって基地局をより多く配置する運用となり、通信網を構築する投資額は必然的に増加することになります。これを回収すべくビジネスを成立させることが要求されるわけです。

稼げない限り投資が続かない。でも稼ぐキモであるBtoBは時間がかかる。そうかといってBtoCのサービスアイデアがない。過去の延長線ではなく5Gとしてビジネスが成立していかない限り、5Gへの進化はままならないという状況なのです。

そんな事情もあって、国内の事業者は、アイデアコンテストを開いたり、ベンチャー企業と連携したりと、他人のアタマも使いながら、なんとかBtoCのサービスアイデアをひねり出そうと格闘しているという状況です。

こうした課題に対して解決策不在のままなら、速くなるだけの ”4Gダッシュ” のようなサービスに留まるか、場合によっては、都内でしか使えない高価な通信サービスになってしまう可能性さえ考えられます。

何らかのブレークスルーがない限り、一般の企業としては、実証実験などは大企業にお任せするとして、少なくとも2022年までは傍目から様子を窺っておくほうがよろしいように、個人的には感じているところです。この件において、利用が後発になって損をすることはおそらくないでしょう。

格安SIMの百花繚乱にみる「企業の自前MVNO」

最近、携帯電話のMVNOによる格安SIMサービス事業に進出する企業が次々と現れています。

MVNOとは、大手キャリアが運営する携帯電話網を間借りする形で、携帯通信(Mobile)の仮想的な(Virtual)回線事業者(Network Operator)として、通信サービスを運営する事業者のことを指します。

インターネットプロバイダーを営む事業者が自社のサービスの拡大のために進出するケースが典型的ですが、小売業や機器製造メーカーなどまったく異業種の企業が進出するケースも目立っています。

大手キャリアと比べた場合に通信品質やサポートが劣ることや、初心者には端末設定が難しいなどの指摘もされていますが、なにより大手キャリアの通信プランに比べて段違いの安さで利用でき、契約も月単位、解約しても違約金などを取られることがないので乗換が容易です。この使い勝手の良さで、ここ最近人気を獲得し始めています。

MVNOにより、どんな企業でも通信サービスの事業化を目指すことができます。これまで、通信事業を自ら手掛けるという発想は、ネットワークを構築運用するための莫大なインフラコスト、通信事業にかかる法的な規制、大手キャリアによる参入障壁などを考えれば、ほとんどありえないことでした。ところが、MVNOは大手キャリアが整備する既設の回線を借りるだけでよく、通信ネットワークを維持管理する手間もノウハウも不要で、うまくいかなければ撤退も容易です。

MVNOは日本だけでなく、米国や欧州など海外にもMVNO事業が可能な国があります。そうした国でも同じ発想で、通信サービスを手掛けることが可能になるわけです。

このことで、企業のビジネス環境が変わりました。企業は、「自前の製品やサービスにモバイル通信を組み込む施策」を、容易に構想できるようになります。もちろん、単に通信ビジネスを始めようということではありません。つまり、いま提供している自前の事業に、通信を組み込んだら、顧客にもっと高い利便性を提供できないか、という発想ができるようになるということです。

これまででも、このようなかたちで通信を組み込んだサービスは、キャリアの力を借りて無理やり実現しようと思えば可能でした。しかし、コストや手間に見合った利便性や魅力を提供するものにはなりにくく、現実的ではありませんでした。この状況が変わったということです。BtoCなら特に、容易に利益ロジックを立てられる状況が生まれています。

企業には、発想の転換が必要になるでしょう。ITの進化がもたらすパラダイムシフトとパワーの一端が、ここにも見えるように感じています。

BYOD、やるならこう考える(2012年8月)

BYOD とは、Bring Your Own Device の略です。ご存知の方も多いことでしょう。

企業では最近、ケータイをはじめとしてモバイル端末の業務利用がかなり浸透しています。そうした企業の社員は多くの場合、企業が貸与した法人端末と、自らが所有する私有端末の 2 台を常時持ち歩いています。そうした「2 台持ち」は結構煩わしい、ということで、企業が私有端末を業務用途に使うことを容認する、という動きが BYOD です。iPhone や iPad がリリースされて以来、随分盛んに言われるようになった気がします。

モバイル端末を業務に使えば、一般的に、業務に関する情報が端末に格納されます。これまでは法人端末でさえ企業側でコントロールがしにくく、ましてや私有端末を業務利用するなど現実的ではありませんでした。ところがスマートフォンの登場でアプリの機能レベルが向上し、遠隔操作で端末のデータを消去できるなど、かなりきめ細かな端末のコントロールが可能になっています。こうしたことも、BYOD が現実味をもって言われ出した背景にあります。

ただし、そもそも BYOD を盛んに取り上げているのはマスコミです。「先進企業はもう始めている」とか「現場は求めている」とか「無視できない」とか「アメリカはもうやっている」とか、いろいろ囃し立てていますが、現実は賛否両論です。アメリカでもそうです。あまり惑わされないほうがよいでしょう。

要は、「自社で必要なのか」「それで生産性が上がるのかどうか」です。逆に管理が増えて工数が上がるのなら、やらなければよい話です。

しかし一方で、必要に迫られる企業があることも事実です。例えば中堅や中小企業で、モバイル端末が業務上必須だが資金的に会社では端末を配布できない、といったケースが実際にあります。

さまざまな事情がある中で、企業は BYOD にどのように向き合えばよいでしょうか。少し考察してみます。

モバイル端末の最大の懸念は、データのセキュリティです。無策で放置すれば、簡単に情報漏えいにつながります。

これに対するスマホやタブレット向けのソリューションとして、MDM (モバイル・デバイス・マネジメント)と呼ばれるツールが充実してきています。SaaS で使えるサービスもあり、選択の余地があります。

しかし BYOD となると、MDM をそのまま適用しにくい事情があります。なぜなら、私有端末に対して企業が完全なコントロールを行うのは、現実的ではないからです。

もし端末を社員が紛失したとき、リモートワイプ機能を使ってデータ消去を遠隔で行えば、業務データのみならず社員個人のデータも消去されます。また MDM では、位置情報から社員の行動履歴も取ることができますが、BYOD では個人的な行動まで記録されることになります。さらに、社員はたびたび端末を乗り換えます。それらをすべて申告させて、管理しなければなりません。社員が申告を忘れて業務に使用した場合、未然に取り締まれるでしょうか。

こうした事情を想定すると、やはり現時点での BYOD は時期尚早と感じざるを得ません。

では、いつ現実味を帯びるか。それは、モバイル端末にクライアント仮想化を実装できるようになった時点、と思われます。

クライアント仮想化ができれば、モバイル端末上で法人用のゲストOSを起動させることで、個人利用と完全に峻別することができます。データはゲストOS上での利用に限定ができますし、ゲストOSがなければ業務利用できないようにすることも可能です。

また、モバイル・シンクライアントも可能性があります。シンクライアントが使えるなら、そもそもデータは端末に一切格納させない使いかたは容易です。

ここまでできると、上記のような諸問題はかなり解決が可能です。

スマートフォンに仮想化ミドルウェアを実装する技術は、試作品レベルではすでに出てきています。初期の実用性はともかくとして、それほど時間がかからずに市場に出てくるのではないでしょうか。

ですから、ひとまず BYOD は、シンクライアントや仮想化ソリューションが現状でも使えるラップトップ PC のレベルに留め、スマホのクライアント仮想化ソリューションが市場に浸透してきたときに本格導入を考える、というのが無難だろうと思います。

こうして見ていくとわかるのは、BYOD の現状の諸問題はおよそ技術的なものだということです。そのうち解消されていく方向でしょう。

では少し話を進めて、BYOD を実現する前提となったら何を考えればよいでしょうか。

やはり、BYOD での利用範囲を限定する必要があると思います。いくらデータセキュリティが担保されるとしても、何でもかんでもスマホでできますというのではハイリスクです。

実際、マスコミがさかんに先進事例として取り上げている企業の取り組みを見ていると、利用範囲はメールだけ、インターネット接続だけ、などと限定されています。米国での事例も、例外ではありません。

そもそも、スマホやタブレットでどうしてもやるべき業務というのは、それほど多くないはずです。そのほとんどは閲覧ベースの業務であるはずで、ファイル作成や計算処理の実施などはラップトップのほうが便利なはずです。また、単純な業務に利用を限定すれば、それだけ接続環境もシンプルになり、追加投資が異常にかさむこともありません。

また、もし何でも社外で業務ができるとなれば、それは在宅勤務が可能ということと等価です。在宅勤務がその企業にとって必要かどうかは、BYOD とは別の議論が必要でしょう。

BYOD に向き合う際の視点を、いくつか挙げてみました。やはり肝は、ビジネスの仕組みに対する自社のスタンスです。モバイルをどう使いこなしてビジネスの仕組みを補完するのか、うまいシナリオを練って使いこなしてください。

スマホやタブレットに心動かされている経営者のみなさんへ(2012年2月)

最近売れているスマートフォン(スマホ)やタブレットを、企業でも利用すべきだという論調やマーケティングが盛んです。

iPhone と iPad の登場により、スマホやタブレットは社会を席巻し続けています。その利便性と使用感の良さを企業利用でも活かせるだろう、活かしたい、というのは、自然な発想です。

スマホやタブレットが特に威力を発揮する領域は、ひとことで言えば「見る用事」の領域だと思います。

例えば、レストランなどでのメニュー選択やオーダー、衣料品店での商品閲覧や選択など、顧客対応のある場所での活用は、非常にわかりやすい例だと思います。おしゃれなお店で iPad が出てくると、ちょっと格好がよいですね。

それ以外でも、工場内で生産状況や業務手順の確認をしたい場合などでは、モバイル PC は入力操作がしづらく使いにくいところです。こんな時にも、持ち運びが便利で起動が素早く、状況確認はもちろんちょっとした入力も立ったまま簡単にできるスマホやタブレットは、大変重宝するはずです。

巷でのスマホやタブレットの大人気ぶり、そして続々出てくる企業での活用事例。いろいろよい話を聞いていると、自分の会社でも使ってみたくなるでしょう。こういう話に、経営者の方は弱いところがあります。

スマホやタブレットに心を動かされている(または、動かされかけている)経営者、または経営幹部の方に、「自分はこうした話に素直に反応してもよい体質なのか」をテストできる質問があります。よろしければ、ちょっと試してみてください。

次のフレーズを聞いて、どう感じますか?

「スマホ・タブレットを使って、わが社は社内の生産性を高めることができる」

部下からこの提案が上がってきたら、同感ですか?

同感する方、その同感の度合いが高いほど(膝をたたいて同感する、など)、ご自分の体質を疑ってください。逆に、多少なりとも違和感を感じる方は、正常です。ご自分の直感を信じて行動してください。

なにが問題なのでしょうか?

例えば、社長のツルの一声でタブレットを導入した会社が、けっこうたくさんあるようです。役員会議は基本的にタブレット持参、紙配布はなしにしてペーパーレス化、生産性も高いうえに環境にも配慮している、といった具合です。

これで生産性が上がっている会社も、確かにあるでしょう。しかし、どんな会社でも上がるのでしょうか。端末の特性から言って、少々疑問を感じます。

タブレットにしてもモバイル PC にしても、電子ファイルベースでの閲覧性や視認性は最近ずいぶん向上しました。しかし、まだ苦手なことはあります。

例えば、こんな場面はどうでしょうか。ある資料の 8 ページと 14 ページを見比べたいという場合、電子ファイルの閲覧ではどうしてもやりにくいという問題があります。紙なら、まったく問題ありません。

またプレゼンテーションでは、プレゼンターが「見せる設計」を行ってプレゼンを進行することで、理解を深める演出を行うことがありますが(レベルの高いプレゼンターなら、たいていそうしたことをします)、全員が前方のスクリーンではなくタブレットを見てしまうと、その設計も水泡と化します。プレゼン専用ツールでも使って制御しない限り、参加者が好き勝手に自分が見たいスライドを見られるからです。

また、会議中に画面を眺めることの弊害もよく指摘されています。米国の企業では会議でのコンピューターの使用を禁止するケースがあるそうで、それを意味する “topless meeting” という言葉は、なんと IT 企業が集積するシリコンバレー発祥と言われています。また大学などでは、授業中のコンピューター利用を禁止しているケースが多数あります。

企業と大学では事情は異なるでしょうが、根本的な課題意識は両者とも同じで、コミュニケーションに弊害があることが大きな理由です。アイコンタクトを重視する文化であるからこそと思われます。

そして、こうした「モバイル環境」を一旦つくると、人間どうしても慣れてくるものです。スマホもタブレットも、資料閲覧以外のことがなんでもできます。仕事中にゲームをやる人間はいないとしても、メールチェックや気になるニュースの閲覧など、会議と関係ないことに精を出す参加者が出てくることは防げないでしょう。それでは、生産性は逆に下がっていくかもしれません。

大抵の場合、なんらかの技術が先に立って事業や業務にメリットをもたらす、ということはあまりありません。そうではなく、事業や業務にメリットをもたらす「仕組み」がまず描かれ、そこに使える技術を、使う側が見出して取り込むものなのです。

ですから、先に挙げた「スマホ・タブレットを使って、わが社は社内の生産性を高められる」というフレーズは主客転倒になっていて、本来は「社内の生産性を高めるに当たり、スマホ・タブレットはオプションになり得るか」と考えるのが正解です。

生産性を高めるシナリオをまず立てて、そこにスマホやタブレットがぴったり当てはまるなら、ぜひフル活用してください。使える新技術は、早く取り込んだほうが間違いなく有利です。逆に当てはまらないなら、導入は控えることをお勧めします。ムダ遣いに終わる可能性が高いです。どうしても社員にプレゼントしたいとおっしゃるなら、その限りではありませんが…