先が読めない時代に、どういう会社を目指すか

最近のビジネス動向に触れていると、さまざまな分野で、時代の端境期にあるように感じられます。その要因のひとつになっているのは、ITを中心とした技術の進展ですが、それがひとつではなく多くの分野で、横断的かつ複合的に影響を及ぼしています。この先どういう時代がやってくるのか、長期的にはまったく読めないのが、いま現在ではないでしょうか。

例えば、自動車業界は興味深い分野だと思います。わたしは2012年初めにも本コラムで、「そろそろ『自動車会社』を辞めることを考えるべきときが来ているのではないか」と書きましたが、6年近くたった今となってはさらに進化した先行きが妄想できるようになってきました。

例えば、こんな想像も、ひとつのシナリオです。もし、レベル4と呼ばれる完全自動運転が実現し、一般道でもオートパイロットで運転されるようになればどうなるか。ほとんどの消費者は、車を買わなくなるかもしれません。使いたくなった時に、アプリで呼び出すだけ。呼び出せば、時間ちょうどに家の前まで自動でやってきて、用事が済むと、自動で帰っていきます。自ら所有する必要などありません。バスもタクシーも、事業にならなくなるかもしれません。個人は駐車場も不要になり、それを生業にする不動産ビジネスも方向転換を迫られるかもしれません。

いまの人たちが電車に乗るときに気にしないように、クルマに乗るにあたって「操る喜び」を気にする人も、そのうちほとんどいなくなるかもしれません。それよりも、乗る楽しさを左右するのは、車内で展開されるアプリケーションのほうになります。

クルマに乗る目的が、点から点への移動だけではなく、クーポンをくれるとか、自分の好みのイベントやおもしろい場所に勝手に連れて行ってくれる、というものに変わっていくかもしれません。楽しさを提供するアプリケーションをいかに創出するか、その楽しさを生み出すために必要なデータやログをいかに収集し分析するか。それがモノをいうのだとしたら、自動車そのものは、ソフトウェア開発会社かサービス会社の「部品」になるかもしれません。

そして、消費者にとって、内燃機関かハイブリッドかEVかなど、どうでもよいことになり、今後どこかでエンジン技術の向上はあまり求められなくなる、つまりコモディティ化するかもしれません。

これとは違う未来も、想像できるでしょう。しかし、なにが本当なのかは、誰にも読めない状況だと思います。経営する人間にとっては、興味深いけれど非常にやっかいな世の中です。

こんな状況で取れる道は、おそらく2つではないかと思います。ひとつは、あらゆる構造変化に柔軟に対応できるような、変わり身の速い事業と組織を維持すること。もうひとつは、自分がゲームチェンジャーになって未来をつくること。どちらもなかなか難しい注文です。ただし、自らの顧客を定め、その顧客に価値を提供することを目指すという点は、時代がどのようになっても揺らぐことはないと思います。