自分の会社のホームページくらい、魂込めてつくれ

わたしはここ数年、甘党傾向が年々極まってきているところがあります。始めは人様に差し上げるお土産として購入していたのですが、そのうち自前にもついで買いするようになり、拍車がかかってしまいました。最近では、訪問などで外出している際、場所を移動する間にエキナカやデパ地下などを見つけるとフラフラ寄り道し、おいしそうなものを見つけては買い食いする、ということを繰り返しています。

スーパーに売っている廉価品から、一流の名店による高級品まで、かなり舌は肥えてきたような気がしているのですが、それでも見た目でだまされる(といっては申し訳ないのですが、味でがっかりさせられる)こともしばしばあります。一方で、そこまで期待はしていなかったのに、ほおばった瞬間に感動を覚えるようなものに出合うと、かなり強く印象に残ります。

そうして感動を覚えるとまず行うのは、ネットでの検索です。その商品をよく知ったうえで買っているわけでもないので、そもそもどんな店なのか調べに行きます。

ところが、菓子製造の業界ではかなり顕著な傾向に思えるのですが、自社でホームページを構えていない事業者はかなり多いのです。

あっても、文字通り「一枚ぺら」しかページがない、会社の名前と住所程度しか書いていない、というような、情報密度が低レベルのものが少なくありません。それでいて、なぜだがフェイスブックやインスタグラムだけは(形だけ)やっていたりします。

本当に、もったいないことだと思います。これで、顧客のロイヤルティの獲得をほぼ逸することになります。

ホームページは、自社の創業の理念、社会に訴求したいミッション、目指しているビジョンなどを、誰からも制約を受けることなくアピールできる場所です。自分たちは何者で、何にこだわりを持ってシゴトをしているのか、自分たちの仕事から何を感じてほしいのか。見ず知らずの人にはなかなか聞いてはもらえないような思いの丈を世間に向かって存分に訴えかけることができ、それが反社会的でもない限りは誰にも咎められることはありません。そうした主張を読むことで、興味を持った人たちがより興味を深める機会になるわけです。

製造業であれば、自社の商品へのこだわり、商品を製造する過程や苦労、従業員の存在価値や職人技、等々を掲載したら、よりリアルに商品の価値や会社の価値を感じてもらえます。会社に直接コンタクトでもしない限りは知り得ない情報を、外部の人に知ってもらえるのは、かなり有益な機会です。

にもかかわらず、面倒だからか、作り方がわからないからか、ホームページさえ存在しないという会社は、自らの価値をかなり下げていると言えるでしょう。

会社として考えていること、大事だと思っていることを、具体的に言葉で表すのは、大変重要な取り組みだと思います。それが、会社の中での一体感の源泉になります。言葉になっていないのは、経営者が言葉にしていないからにほかなりません。言うまでもない当たり前のことのようでいて、実際にやらせてみるとなかなか言葉にならない会社を、個人的にもこれまでいくつも見てきました。

こと食品業界の場合はよくあることですが、会社が自社でホームページを作らないと、グルメサイトやまとめサイトの類のところが勝手にその会社や商品の紹介ページを作って勝手に公開してしまいます。それは会社のコントロールが利かない、いわゆる勝手サイトです。そこにポジティブなコメントが展開されるだけならよいでしょうが、間違った情報やネガティブなコメントでページが埋められれば、世間の人々はそれを共通理解にすることになります。

いまやホームページの制作に、専門知識は不要です。切り貼りする程度の操作で簡単に作成できるソフトウエアが安価に数多く販売されていますし、クラウドサービスでも制作できます。ホームページ制作の技術的な領域を代行してくれる個人や会社も、探せばいくらでもあることに気付くはずです(当然ですが、「丸投げ」は厳に慎むべきです)。

メンテナンスが面倒だと思うのかもしれませんが、それも知識はほとんど不要で簡単です。メンテナンスすることも見越して制作するようにすれば、間違った方向にはいかないでしょう。

フェイスブックやインスタグラムで十分ではないか、と思っている会社もいるのかもしれませんが、わたしに言わせれば、自社のホームページがないというのは全く不十分です。芸能人やプロスポーツ選手であればインスタだけで問題ないでしょうが、企業は違います。少なくともわたしには、そのような企業は本社住所もないのに事業者を名乗っているようなことと同じに見えます。

これは食品系の会社に限りません。中小の会社ならどの業界でも、特に社歴の長い会社ほど、このような傾向があるのではないでしょうか。小難しいSEO対策などは一切不要です。写真も動画も、手持ちのスマホで簡単に撮れます。自分の会社の存在価値を訴えるホームページくらいは、入魂して自分で作りましょう。

メタバースがビジネスになるのか、考える

海のものとも山のものともつかないバズワードに、「メタバース」があります。今月は、このメタバースとビジネスは相いれるものなのかについて、少しだけ考えてみたいと思います。

メタバースという言葉、実はその定義はあいまいです。それほどに、何ができるものなのか、そもそも何がしたいのかさえ、まだ誰もわかっていないように思います。だからこそ、何でもできるような位置づけで語られることが多いように思いますが、その一方で、大きな魅力を感じるようなキラーコンテンツが示されているわけでもありません。

イメージだけでざっくりとメタバースを捉えると、バーチャルな空間に社会が形成され、そのなかで自分の分身であるアバターが様々な体験や活動を行える、という感じでしょうか。かつて「セカンドライフ」という、似たようなコンセプトのものが話題になりましたが、やろうとしていることはその当時と同じようにも思えます。ただ、技術は当時よりもはるかに向上している分、現在のバーチャル空間のほうがより可能性を感じられるということで、再び注目されているということだと思います。

実際、社名まで変更してしまった旧Facebookはもとより、GoogleやMicrosoft、日本国内でもNTTドコモやKDDIなど多くの企業が、この分野をビジネスとして捉えようと取り組みを進めています。

いま現在語られているメタバースの具体的なケースは、バーチャル空間でイベントを行うとか、繁華街を再現するとか、コミュニケーションできる空間を作るとか、”斬新なデジタルワールド” といった世界観の話が多いように思います。それだけ聞いていると、特定のビジネスなら関係ありそうだけれど、その他ほとんどのビジネス領域には関係なさそうだ、と判断してしまうこともできそうです。

しかし、メタバースの本質的な部分は何だろうかと考えてみると、案外多くのビジネスと相性がいいのではないかとも考えられます。

例えばゲーム。これは言わずもがなかもしれませんが、考えてみればメタバースの空間で展開されるゲームは、従来のゲームとはかなり様相が違うものができそうな気がします。まるでそこで生きているか、戦っているか、というような状況でゲームが展開され、場合によってはゲームをしていながら、そのなかで実際に買い物をするかのようにアイテムの売買が行われ、案外幅の広い経済活動が成立することもできそうです。

エンターテインメントは想像しやすいですが、もう少しお堅いところで行けば、例えば「訓練」とメタバースの相性はかなり良いと思います。訓練というのは、職業に関連したトレーニングやOJTもそうですし、技能訓練、例えば航空機や工業機械、重機などの技能習得を行うのに、カスタマイズして構築したメタバースは使えそうです。もしかすると、一般の自動車教習のかなりの部分は、メタバースで代替できてしまうかもしれません。

体験の提供もできることを考えれば、建設や不動産関連とメタバースの相性もよさそうです。いま建設設計は、かなりの部分で電子化が進んでいます。3D CADで設計した設計データをメタバースに反映するということは容易でしょう。デザイン段階でメタバースにその建築物をリアルに再現し、バーチャル空間で顧客に体験してもらうことができれば有益です。また、街そのものを再現できるメタバースであれば、不動産物件そのものを空間に再現すれば、内見はかなりリアルにできそうです。

他にも、事前に体験することに価値があるような分野、例えば病院での検査や治療をバーチャルに再現するという用途もあるかもしれません。重い病気で長期療養する患者に向けて、どんなふうに検査や治療が進められるのかを事前に理解してもらえれば、患者の安心感は高まると思われますし、そういう情報を提供してくれる病院のほうが選ばれる可能性が高いでしょう。

医療関係つながりでいけば、メタバースはカウンセリングが必要な領域で効果的かもしれません。患者のカルテに加えて個人的なプロファイルをもとにすれば、学習済みの人工知能(AI)がその患者に適切なカウンセリングプログラムを自動で設計し、人あたりを患者に応じて最適化したアバターを介してAIが適切な対話を提供できれば、治療に役立つかもしれません。

メタバースの可能性のひとつは、パーソナライズできるところにあります。利用者の特性に応じて、同じ空間を使いながらも、見るものや触れるものを個人レベルで自在に変えられる特徴があります。それを活かせば、利用者ごとに異なった体験を提供したいものに有効に機能する可能性もあるでしょう。

メタバースは、いまのところバズワードの域をまだ出ていないと思いますが、本質的な特徴は何らかの形で今後実現していく可能性は高いと思います。みなさんも、いろいろと思考実験してみてはいかがでしょうか。

ネット利用の実態に見る、ITとのうまい向き合いかた

先日、MMD研究所が発表した「女性のスマートフォン利用実態調査」の調査結果を見て、興味深く感じました。

調査では、スマホを所有する15歳から49歳までの女性約1500名に、スマホの利用状況について回答してもらっています。

特に興味をひかれたのは、FacebookとTwitterの利用についてです。

調査によれば、Facebookは若年層になるほど使われていない傾向で、1割程度しか利用率がないということです。独身女性では45%の利用率ですが、既婚になると27%程度と利用率が下がります。逆にTwitterは、若年層ほど使われ、年齢層が上がるにつれて利用率が下がり、既婚女性では2割を切っています。ちなみに現在の主流は、どの年代でも圧倒的にLINEです。

若年男子だとFacebookを多用しているというのも、想像するに考えにくいと思います。もしこの想像が正しいなら、今後Facebook自体の利用はあまり活発にならないことも想像できる結果です。

またTwitterに関しても、別の調査結果によれば、44%がツイート経験がないとされています。これと併せて想像すると、Twitterに関しては見ているだけでまず始めてみるが飽きてきて、年を重ねるにつれ見なくなる、ということかもしれません。

FacebookやTwitterが盛り上がるようになってから10年程度でしょうか。その程度の期間で主流が入れ替わってしまうあたり、ネットの世界の移り変わりの激しさを改めて感じざるを得ません。

またLINEに代表されるメッセンジャーアプリは、いまとなっては単なる無料の通信手段というだけでなく、コマースの入り口としての機能も有してきています。LINEをやっていたら企業からお得なクーポンが流れてきて、店の人とチャットして、気に入ったらそのまま買う。こんな購買体験が若年層にとって当たり前になってくれば、それが、これからの買い物の「当たり前」になるかもしれません。

もっと考えれば、LINEではないまったく新しいものがこれから登場して、FacebookやTwitterやLINEのように爆発的に広がり、いまのメッセンジャーアプリでないものが主流になっていく可能性も、否定できません。

ITとは、そんな代物です。このような特質のものに対して、なにかひとつだけに意思決定し固執するのは、かえってリスクです。出てきたものには何でも対応して、廃れてきたら辞めて、別のものにいく、というような柔軟性をもつことが望ましいと思われます。コストは重要ですが、コスト判断をあまり厳密に求めるとそこで立ち往生し、乗り遅れ、追従するころにはまた変わる、ということになるでしょう。

すべてのITに対してこの対応、というのはもちろん現実的ではありませんし、その必要もありません。しかし、少なくとも自社がこだわって先駆者になりたい分野、またはコストを賄いやすいライトな分野に関しては、こうした柔軟性のある組織でありたいものです。

「みんなの意見」を強力な武器にするために

今月も、ビッグデータを肴に述べてみたいと思います。

データ活用の視点に関して、最近大事だなと感じているのは、「みんなの意見」の有効活用です。企業の立場であれば、顧客の意見であったり、利用者の意見であったり、オーディエンスの意見であったりします。これは、使いかたによっては強力な武器になると感じています。

ベンダーが盛んにビッグデータを喧伝していますが、そうかといって単なるマーケティングだと軽視しすぎてもいけません。宣伝だけでなく、今後の取り組みに有用な視点も含まれているものです。

そうした有用な視点のひとつに「取得できるあらゆるデータをまるごと分析対象にできるようになってきた」ことがあり、その事例の中で、「みんなの意見」を活用するものが取り上げられることがあります。

こうしたケースですぐに思いつくものといえば、Twitter のつぶやきから企業にとって有益な示唆を得る、という話です。企業がアンケートを取るなどの方法では得られない顧客の本音や、まだその企業の顧客ではない人の意見が、Twitter では聞こえてくる可能性がおおいにあります。これを利用すれば従来得られなかった示唆を見出せる、というわけです。

たしかにその通りだと思います。ただし、ネットでは意見が偏っている人が大声を出しているケースも多々あります。言葉の使いかたにしても、きちんと文脈を読み取らなければ意味を取り違えるケースもあり得ます(例えば、「ヤバい」は、肯定でも否定でも使われています)。それに、そもそも人間には「本音」が必ずしも言葉にならない傾向があります。実際に自分自身のことを考えてみても、思っていることを適切に表現するというのは結構難しいことではないでしょうか。

少し思いを巡らせるだけでも、つぶやきをデータ分析すれば欲しい答えが得られるというほど、簡単な話ではないのだと感じます。

その一方で、「みんなの意見」をうまくつかうと結構すごいなということが、いろいろ出てきています。

例えば、ウェザーニューズが配布しているスマホ向け無料アプリ「ウェザーニューズタッチ」。同社が気象サービスを提供するとともに、そのユーザー(「サポーター」と呼ばれる)が自分の居場所の天気を報告する機能を持っています。

サポーターは2013年2月時点で400万人を超え、1日あたり2万件程度、多いときは約20万件の「報告」が寄せられるのだそうですが、こうした「みんなの意見」により、先日気象庁が外した2回の大雪予報(片や「降らない予報」で大雪、片や「積もる予報」で降らず)を、2度とも見事的中させたということです(関連記事)。

別の例でも、興味深いものを見ました。ある2つのゲームアプリ開発会社で開発されている「オセロアプリ」の対決です。片方は、布石のアルゴリズムを精緻化した「頭脳派」タイプのアプリ、もう片方は、アプリを利用するユーザーのうちで強いプレーヤーたちの布石の傾向をデータ化して利用する「みんなの意見」タイプのアプリ。それぞれの会社が「最強」と銘打つその両アプリを対戦させるというものです。結果、この対戦で勝ったのは、「みんなの意見」タイプでした。

もうひとつ、ネットの翻訳サービスも実は「みんなの意見」がベースになっていることで有名です。つまり、ネットの翻訳エンジンの基になっているのは、ネット上にある膨大な量の文書データ、いわば「みんなが書いた文章」です。それをパターン分析して、文の要素ごとに翻訳パターンのテーブルをつくるという、ごく簡単に言えばそんなことをウラで行っています。

英日翻訳などを試してみると、楽しい?!翻訳がときどきなされるときもありますが、汎用的な内容で短めの文章ならかなり翻訳精度が高いことがわかります。旅行する程度のレベルなら、翻訳アプリが載ったスマホ片手で十分かもしれません。

上記の事例、どれも簡単そうに見えて、実際は相当な分析処理ノウハウが必要です。しかしそれを操れる力を組織が得たなら、「みんなの意見」をうまく利用でき、それがかなり強力な武器になることが想像できるのです。

このとき、強力な武器にするための課題としては、「一定の質を持つデータを大量に集めること」「継続して分析し知見を更新できる基盤を構築すること」「みんなにうまく、定期的に、長期にわたって入力してもらえるようにすること」など、さまざまなものがあるでしょう。

そして、それにも増して必要なことは、この武器を有効に使ってビジネスを加速させる「発想」です。

上記で紹介した3つの例はいずれも「みんなの意見」をサービスに活用しています。このように、この手の話でよくある「マーケティング利用」ではなく「サービス」を「発想」してほしいと思います。そのほうが、武器としてははるかに強力になるはずです。

わたしにもいくつか、コラボしたらおもしろいんじゃないかと思えるアイデアが浮かんでいます。

「ソーシャルをやらない」、大いに結構!(2012年4月)

今月は、「企業がソーシャルメディアとどう付き合うか」について、考えを少し書いてみたいと思います。

ここでは、わたしがこれまで観察したり、自ら使ってみたりした結果として、考えたことや気づいたことを書き留めておきたいと考えています。世間に逆行するようなタイトルではありますが、案外すでにいろいろなところで言われていることと重なる指摘もあるかもしれません。それも含めて、ご参考になれば幸いです。

さて、Facebook や Twitter、mixi など、ソーシャルメディアと呼ばれるネットサービスは、すでに多くの人が触れるものになりました。

ニールセン・ネットレイティングスによる、2011 年 10 月のインターネット視聴率の調査結果によれば、国内利用者数は Facebook:約 1100 万人、Twitter:約 1400 万人、mixi:約 800 万人、などとなっています。ただしこの数字は、携帯利用者は含んでいないということですから、実態はもっと多いと思われます。

このような状況を目の当たりにして、多くの企業が Facebook ページや Twitter アカウントを開設するようになっていますが、その対応に迷う企業もあるようです。

そのような迷える企業に対して、いくつかの方面からはネガティブな論調も聞かれます。「いまどきやらないなんて、考えが古い」「やらないことで、やっている企業と差がつく」「ある企業は、それでかなり集客している」「やらない方がリスク」等々。

だからといって、ソーシャルに取り組もうと社内調整を始めると、「それでどんな効果があるのか」「炎上したらどうするのか」などと言う人が現れ、苦労するという構図も見え隠れします。

さまざまな意見がある中、企業はソーシャルメディアをどう捉えれば、うまく立ち回れるようになるでしょうか。

わたしは、ソーシャルメディアにより「顧客とのコミュニケーション手段が増えた」と考えて対応するのがよいのではないか、と感じています。

例えば、小売業の方でもそうでない方でも、お店に行くとよく「顧客の声カード」という類のメモ用紙が置いてあって、そこに意見を書き込むと店の人に読んでもらえるようになっているのをご存じでしょう。また、たいていの企業には「コールセンター」や「コンタクトセンター」と呼ばれる窓口が開かれており、そこに電話をかけると企業に話を聞いてもらえるようになっています。

お店の中では人が集まることでコミュニケーションが発生します。電話は人と人と結んでコミュニケーションを行う手段です。ソーシャルメディアもまた、サイト上に人が集まってコミュニケーションが行われます。状況こそ違いますが、人が集まる「場所」であることに変わりはありません。

ですから、店舗やコールセンターと同類項で、ソーシャルメディアを捉えればよいのではないでしょうか。「そこにお客さまが大勢いるのだから、企業としてコンタクトを取れるようにしよう」ということです。

その意味では、前記したような「やらないなんて…」という論調は、必ずしも的を射ているとは思いません。これは、自社の顧客とこれまでと違った手段で意思疎通を図りたいかどうかという企業の意思の問題であり、それを顧客が喜ぶかどうかという問題です。

そう捉えれば、ソーシャルメディアに取り組むに当たって企業が考慮すべきことは、その企業が「顧客とどうコミュニケーションを取りたいのか」になります。

この問いへの答えが、ソーシャル対応の仕組みづくりの土台です。

例えば、顧客とやり取りしながら商品のアイデアを発掘したい、という目的が考えられます。顧客の困りごとにすぐに応えたい、というものもあるでしょう。一方で、悪評が表面化する前にすぐ対応して消したい、という動機もあり得ます。あまり深く考えず、ただ楽しいことを伝えたいというのも、立派な目的です。

その企業が顧客と相対するスタイルに応じて、それがソーシャルメディアを使うことで具現化されるなら大いに活用すればよいし、あまり合わないのなら活用しなければよい。それだけのことだと、わたしは考えています。

ところで、ソーシャルメディアを集客の仕組みの一部とするという向きも中にはあるようですが、わたしは必ずしも集客を中心に考えるべきではないと思います。

確かに、ソーシャルの取り組みが集客にうまくつながっている企業の例は多くあります。ただし、それらの企業を見ていると、自社のサービスなり製品なりを、あまり前面に出していないケースが多いようです。どちらかといえば、「喜んでもらえること」を教えたりやってあげたりすることでファンを増やし、それが結果として集客に結び付いている構図に見えるのです。

企業でコールセンターを設置するに当たって、「それはどれだけ集客に貢献するのか」と問う人は、おそらくいないのではないでしょうか。それと同類項で考えればよいのです。

ただし、対応すれば何らかの形でコストはかかりますから、効果のモニターは不必要というわけではありません。各ソーシャルメディアの特性をよく見極めて選択し、目指す効果を創出する必要があるでしょう。

その際、なにも無理してすべてのメディアに対応する必要はありません。

例えば Facebook は友人間の交流が主で炎上はしにくいが少々本音は隠しがちなコミュニケーション・スタイル、Twitter はユーザーがわりと本音を出しやすく人となりが出やすい、mixi は趣味趣向を一致させた若者や学生同士の交流の傾向が強く滞在時間も長い、という特性があるように思われます。

また、プラットフォームのスタイルにも特性があります。Facebook ページはホームページに近く、Twitter よりも一対一のコミュニケーションがしづらい面があります。一方で Twitter は、顧客と対話はしやすいものの、顧客ごとに個別対応が必要な面も併せ持ちます。こうした特性も、企業のコミュニケーションのしかたに影響を与えます。

こうした、各メディアの機能的な特性やユーザーの行動特性を見極めて、自社が採りたいコミュニケーション・スタイルに合ったメディアを選択すればよいと思います。

例えばもし、一番スタイルに合っているのがメルマガなのであれば、わたしはそれでよいと思います。メルマガは、読者に継続的にじっくり読んでもらうには適したツールです。決して時代遅れであるとは思いません。

もちろん、一度始めたなら継続することが重要です。少人数でもしっかりした実行体制が要求されます。特にソーシャルメディアを利用する場合、メディアは自己都合でプラットフォームの仕様を変更することがあり、その対応があることに注意が必要です。

つい先日ですが、3 月 30 日から Facebook は「タイムライン」という新機能を実装しました。これにより、Facebook ページには企業と顧客とのやり取りが時系列に表示されるようになるのですが、一方で顧客とのやり取りがあまり頻繁ではないと時系列が更新されず、活動が少ないページの印象になりかねません。

これまでホームページのようなデザインを前提にして Facebook ページを設計をしていた企業にとっては、ページデザインもコミュニケーションのあり方も、変更を迫られることになるわけです。このような追加・修正・変更・削除は、Facebook に限らず他のメディアでも起こるはずです。

ソーシャルメディアを利用する企業は、こうした変更に即時に追従し、対応していかなければなりません。そして、それを息の長いかたちで取り組むことになります。その程度の覚悟はもって、仕組みをつくるべきでしょう。

ここまで述べたように、顧客とのコミュニケーションの取り方を改めて見据え、それに合うメディアがあるなら積極的に活用して顧客とのやり取りを深める、という考えの下、仕組みをデザインしてみてはいかがでしょうか。肩ひじ張らない、気持ちの良い関わり方をぜひ目指してください。