先日の日本経済新聞では、次世代通信規格「5G」の商用化の動きについて、大きく報じられていました。
それによれば、去る2月26日に開幕した、世界最大のモバイル機器見本市「モバイル・ワールド・コングレス」において、世界各国の関連企業や事業者が、相次いで5Gの商用化計画の前倒しを明らかにしたとのことです。早いところでは2019年、日本では東京五輪に合わせた2020年の商用化が計画されています。
5Gには、理論速度で10Gbps以上(実行速度で1Gbps)、4Gに対して1000倍以上の通信大容量化、無線区間の遅延を1ミリ秒以下に抑える低遅延化、同時接続端末数が今の100倍に拡大、といった特徴があると言われています。この通信技術が実現すれば、これまで体感できなかったコンテンツの配信や通信システムの構築が可能となり、例えば4K映像配信、自動運転の隊列走行、遠隔診療や遠隔手術、複数の機器の遠隔操作、などが現実のものとなります。
このような感じで、マスコミも業界も盛り上げにかかっている感があります。ただし、5Gは4Gまでとは異なり、事業としてこれまでのようにスムーズに移行していくかどうか、多くの課題があるのも指摘されているところです。
その理由として、まずビジネスモデルの大いなるシフトが事業者に求められる可能性が高いことが挙げられます。これまでの携帯通信事業は、多くの割合をBtoCで稼いできました。しかし、5Gがどうしても必要となるような、インパクトのある一般顧客向けのサービスケースというのが、現状ではだれも思いついていないという問題があるのです。
4K動画配信とは言っていますが、多くの人々は、いまの4Gの通信でYouTubeを見る程度で満足しています。4K動画でなければ困ると思っている一般の人は、あまりいないのです。万一4Gより5Gのほうが通信料金が高いとなれば、ほとんどの人々は4Gのままでよいと考えるでしょう。ゲームコンテンツなどは通信容量が大きくなることで進化するでしょうが、そのユーザー層は大勢を占めるには至りません。
実は、5Gの技術的インパクトがより大きいのは、高速・大容量であることよりも、低遅延・同時接続数拡大のほうなのです。そしてこれらの要件は、対法人のサービスケースにおいてより有効です。現在取り上げられている5Gの応用例をよくよく眺めると、ほとんどが法人利用に絡んだものであるのは、それを端的に示しています。
つまり、事業者は5Gをビジネスとして軌道に乗せようとするなら、これまでのようにBtoCで稼ぐのではなく、BtoBで大きく稼ぐ仕組みを作り上げなければならないわけです。
それなのに、実は法人向けの目玉技術ともいえる低遅延・同時接続数拡大は、2022年以降での対応と言われています。これは主に、端末から基地局までのアクセスネットワークだけでなく、通信網のコアネットワークまで含めて設備増強する必要があるためです。
しかも、5Gは4Gよりも高い周波数帯を利用することになるということで、その場合、電波が遠くまで飛びません。したがって基地局をより多く配置する運用となり、通信網を構築する投資額は必然的に増加することになります。これを回収すべくビジネスを成立させることが要求されるわけです。
稼げない限り投資が続かない。でも稼ぐキモであるBtoBは時間がかかる。そうかといってBtoCのサービスアイデアがない。過去の延長線ではなく5Gとしてビジネスが成立していかない限り、5Gへの進化はままならないという状況なのです。
そんな事情もあって、国内の事業者は、アイデアコンテストを開いたり、ベンチャー企業と連携したりと、他人のアタマも使いながら、なんとかBtoCのサービスアイデアをひねり出そうと格闘しているという状況です。
こうした課題に対して解決策不在のままなら、速くなるだけの ”4Gダッシュ” のようなサービスに留まるか、場合によっては、都内でしか使えない高価な通信サービスになってしまう可能性さえ考えられます。
何らかのブレークスルーがない限り、一般の企業としては、実証実験などは大企業にお任せするとして、少なくとも2022年までは傍目から様子を窺っておくほうがよろしいように、個人的には感じているところです。この件において、利用が後発になって損をすることはおそらくないでしょう。