サービスの要なはずの「運用」で、手を抜く

去る3月、金融庁が多くの仮想通貨取引事業者に対して、業務改善命令などの行政処分を一斉に下しました。

ビットコインの台頭によって話題性が高まってきた仮想通貨ですが、今年に入って事業者にさまざまな課題が指摘されるようになりました。今回の業務改善命令を受けて、命令の内容に対応できず廃業することとした業者も出たようです。

言うまでもなく、仮想通貨はIT技術を基盤として取引されるものです。多くの仮想通貨取引事業者はこれまで、自社の技術の先進性を前面に出してアピールを行っていました。しかしそのわりに、どうやらシステム運用のノウハウや経験値が相当に低いことが、今回の騒動を通して露呈した印象があります。

多くのビジネスパーソンが、これは仮想通貨取引事業者の話であって自分の会社には関係ないと思っているかもしれません。しかし、今回の例のように、実質的にITが会社のビジネスの根幹を支える存在になっていながら、なぜかシステム運用への意識が低くリソースへの投資も手薄な企業は、業界を問わず珍しくありません。

大抵の企業は、ITを前面に打ち出した「サービス」をつくることには熱心です。サービスに組み込まれた先進的な技術を大きくアピールし、自社が優れていることを印象付けようとします。しかし一方で、そのサービスを顧客に向けて継続して「運用」しなければならないことについて、深く考えていない傾向があります。

経営する以上、顧客にサービスを買ってもらわなければなりません。その意味で、有益で使ってみたいと思わせる魅力が、提供するサービスにあるということは大変重要です。ただしそれは、実際に顧客が体験して初めて有益になるわけで、その顧客体験実現の主体となるのが、サービスの「運用」なのです。サービスを提供する企業が「運用」のクオリティを問わず、それどころか軽視するのは、まったく道理にかなっていません。

魂は細部に宿る、と言われますが、際立つ事業者はおよそ、顧客には直接見えない業務にまで自らのこだわりを浸透させる努力をしていると感じます。みなさんにも、モノはまだ買っていないのに、店に入っただけで質の高さを感じるような経験をしたことはないでしょうか。そういう会社は少なくとも、売る前だけ派手に注力し、売った後の実際の顧客体験の部分では見えないように手を抜く、という行動はとりません。

ITに疎い経営者ほど、システム運用がどのようなコスト構造になっているのか把握していません。そのため、運用コストは削減するものという意識になりやすい傾向があります。本当にその考え方でよいのか。本当の意味で顧客と自社との接点となるのは、マーケティングやサービスメニューよりも、サービスが実際に提供される「運用」であるはずです。ビジネスのしくみを意識する企業ならば、今回の件を他山の石として自らを顧みる必要があるのかもしれません。