日産自動車前会長による有価証券報告書の虚偽申告の事件は、世間に大きな衝撃を与えました。報酬を過少に見せるという、経営者として、組織のトップとして、決してしてはいけないことを常態化させていたようだと伝えられています。日本を代表する自動車メーカーのひとつである同社の大変な危機を救い、ブランドを守った功績のあるカリスマ経営者であることはいささかも疑いの余地がありませんが、欲望を端に発するような不祥事は栄光も善行も帳消しにしてしまいます。
非難されるべきこと以外のことまで持ち出して一緒くたにする、こういう時のマスコミの批判のしかたのイヤらしさはともかく、わたしは報道を見ながら「こういうものこそロボットにやらせればいいのに」と考えていました。
ロボットによる自動化の使いどころには、いくつかの考え方があると思います。それを考えるのも、しくみのデザインです。その切り口のひとつが、人間による不正や犯行の抑止です。
機械には、感情がありません。意志がありません。空気も読めません。この特性は、人間の気持ちに配慮するような対応を実現しようとする場合にはマイナスに働きますが、不正の抑止という側面ではプラスに働きます。機械が自らの欲望に負けて不正を行うことはありません。
以前、アマゾンの物流センターの話を聞いたことがあります。そこで使われているオレンジ色をした箱形の搬送ロボットの話は有名ですが、実はこのロボットが動作する商品棚のエリアには、人間が立ち入ることはできないのだそうです。なぜなら、商品棚のある場所に人間が自由に立ち入れるようになっていると、商品を盗む作業員が出てくるリスクがあるから。また、配送する段ボール箱に出荷ラベルを貼る作業も、ロボットが自動で行い、人間の介入は許さないのだそうです。なぜなら、そのラベルに書いてある宛先は個人情報であり、プライバシー情報を持ち出す作業員が出てくるリスクがあるから。
人間による不正が行われるリスクがある業務プロセスを見極めるという考え方は、欧米ではよくあるアプローチとはいえ、さすがアマゾン、よく考えていると感じました。
そんなことを思い出しながら、有価証券報告書もロボットがつくればいいのにと思いつつ、同時に、たぶん誰もやろうとしないだろうなとも考えました。ロボットに仕事を奪われる経理部門の人たちが拒絶反応を示して、購入を許容しないかもしれません。自ら積極的に導入を考える経営者がいるかといえば、そんなふうにリスクヘッジをしようとする経営者はそもそも、不正を働こうなどという欲求は持ちえないでしょう。