ご承知の通り、IT の世界は進化が早く、次から次へと新しい技術や新しい概念が登場してきます。
最近では、コンシューマー系の技術やサービスが大きな影響を与える傾向がありますね。スマホ、タブレット、ソーシャルメディア、BYOD、無料通話アプリ、等々。
こうした進化に対して、企業とそのリーダーはどのように向き合えばよいでしょうか。私見を 3 つのポイントにして、以下にまとめてみます。
まずやりたいことは、「そのトレンドが、IT 業者のマーケティングの域を出ているか否かの判別」です。
どんな新技術・新サービスも、最初は多かれ少なかれ、IT 業者のマーケティングによって世間に出てきます。これは、別に非難されるものではなく、ビジネスとして当然のことです。
問題は、それが業者の売り込みを越えて、世の中に浸透し、確実に根付きつつあると見るかどうかという、ユーザー側の目利きだと思います。
その判断には、積極的かつ多面的な情報収集が欠かせません。中立的な専門家の見極め、ポジティブな人の意見、ネガティブな人の意見、偏りなく集めて考察すべきでしょう。そのうえで、「マーケティングの域を出た本物のトレンドだ、またはそうなりそうだ」と感じたら、次のステップに進みます。
次に考えることは、「自社に役立つか、役立たないか」です。
その新しい技術やサービスが、自社のビジネスを加速する可能性を持つものなら、積極的に取り入れればよいですし、その可能性を感じないものなら静観すればよい。こんな判断になるでしょう。
そんなこと当たり前じゃないか、と思われるかもしれません。しかし、実践できているかというと、多くの企業で意外とそうでもありません。
どういうことかというと、「役立つか、役立たないか」と考えずに、「それをどう使うか」と考えてしまっている向きも結構あるのです。
前者で考える人には、常に最初に大局的な「目的」や「ゴール」があります。目的やゴールに照らして「役立つか、役立たないか」と考えるわけです。一方、後者で考える人にある目的やゴールは、「その新しい技術やサービスをうまく使うこと」になっているのです。つまり、いわゆる「IT ありき」の発想です。
トレンドなのだから自分も使わなければならない、とは必ずしもなりません。きっと後者の発想の人は「乗り遅れたくない」と思っているのでしょうが、乗り遅れることによる差別化のリスクの大小と、導入したために出てくる労力やコストの大小については、一度考察してみる価値があるでしょう。
安易に流れに乗っかって、成熟していないものにムダな投資と労力を費やし、振り回された上に最後に成果は得られないリスクは高いということも、よく念頭に置くべきです。
たびたびこのコラムでも指摘していますが、IT ありきの発想は大きな間違いにつながります。ぜひ、改めて意識しておきたいものです。
そういえば先日、ガートナーの小西氏によるコラムを拝読しましたが、同氏は顧客からしばしば、「テクノロジーが進化するのに応じて IT 戦略を変化させたいので、中期的なテクノロジ・トレンドを教えてほしい」と聞かれるのだそうです。
ガートナーと言えば大企業の CIO へのコンサルティングで知られていますが、大企業の CIO でもまだそんなふうに考える人がいるのかと、ちょっと驚きました。
さて、本論に戻します。次が、3 つ目に考えることです。
ひとしきり考えた結果、その新しい技術やサービスが「役立つ」と判断したなら、本気で適用の仕方を考えていきます。しかしながら、新しいだけに、すぐに使えるとはなかなかならないことが多くあります。
そんな時に大事になるであろうことが、「時期尚早なものはそのように判断して熟成させる」姿勢です。
本物のトレンドである場合、その技術やサービスは、一度下火になったように見えても必ず進化を続けていきます。現時点で「なんだかしっくりこないな」と感じる部分は、のちにすっきり解消される可能性が、かなり高いです。
ですから、ピンとこないなら躊躇なく「時期尚早」と判断する。ただし、そう判断して捨ててしまうのではなく、ウォッチは続けて「熟成」させる。そのうち進化が問題を解決し、リーズナブルなコストになるのを待って、晴れて採用する。こんなスタンスなら、うまく行くのではないでしょうか。
もちろん、その分野で自社が技術を先導し、他社にノウハウで先んじようと志すのなら、時期尚早なことを承知で採用し、試行錯誤してノウハウを獲得する。その技術が使いやすいものになった暁には、自社が他社に差をつけている。そんなシナリオを目指すこともあり得ます。そのあたりは、やはり「目的」や「ゴール」の持ちかたに帰結するでしょう。
いま起こっているトレンドにも、こんな視点で対応してみてはいかがでしょうか。