ときどき、企業の業務改善に関する事例やストーリーを目にする方も多いことでしょう。参考になる話がたくさん盛り込まれており、わたしもよく勉強させてもらっています。
そうした業務改善に取り組むに当たって必須になるのが、業務分析と呼ばれる作業です。ところで、この業務分析には、置かれた状況に応じて 2 つのアプローチのしかたがあることをご存知でしょうか。
ひとつは、あるべき(ありたい)姿やあるべき(ありたい)シナリオがわかっている状態で使うアプローチ、もうひとつは、それがわからない状態で使うアプローチです。
言われてみれば当たり前に聞こえるかもしれません。しかし、この違いをはっきり意識して使い分けないと、間違った取組みに邁進することが実際によくあります。
先日、こんな話を耳にしました。
ある企業に、モノには自信があるのになかなか売れない商品がありました。なんとか売れるようにしたいということで、その企業は、売れない商品を売るための対策を立てることにしました。
具体的には、現状の営業の業務プロセスを見える化し、「~数」とか「~率」などの数値を割り出しながら、科学的に業務分析をしたのだそうです。その結果から、成果を上げるプロセスを設計したとのことでした。
その話では、設計したプロセスを実践してみた結果が語られなかったのですが、わたしはこれを聞いて「いまいちうまく行かなかっただろうな」と直感しました。
なぜなら、アプローチが間違っているからです。
先ほど、2 つのアプローチがあると述べました。これらをどう使い分けるかというと、端的にいえば「あるべき姿が理解・共有できているかどうか」でアプローチを変えます。
つまり、理想のフォームが明確なのであれば、科学的な手法で業務を分析し、理想との違いを浮き彫りにして成果を出しやすい個所を特定し、理想に近づける方策を実践します。
一方、理想のフォームが明確でないのなら、リファレンスがないので採るべき方針が明確にできません。その場合は、仮説検証型のアプローチを採ります。仮説検証型のアプローチでもし科学的な分析をするのなら、仮説を実践した後の検証のパートにおいてです。
先ほどのケースに戻りましょう。売れない商品を売る、という場合、みなさんには「売れる営業プロセスのあるべき姿」がわかるでしょうか。わかるのなら、そもそも売るのにあまり苦労しないのではないでしょうか。このケースの場合、採るべきは仮説検証型のアプローチです。
ところがこのケースでは、仮説を立てずにいきなり「科学的な分析」を始めています。それでも何らかの「成果を上げるプロセス」は導出され、分かった気になるのですが、いわゆる机上の空論になりやすく、やってみても思ったとおりには行かないことがほとんどなのです。
これが、わたしが「うまく行かなかっただろうな」と直感した理由です。
ここでぜひ強調したいのは、「知りたいことが何かがわかっていないのなら、分析しても意味をなさない」ということです。これは、巷で話題の「ビッグデータ」に関しても言えます。
ときどき経営者のインタビューなどで、「欲しい情報をすぐに見たい」を発言されているのを見つけることがあります。このとき、「欲しい情報」とは何か、それによって何を見出しどういう判断を下せるのか、そうしたシナリオまで語れるのなら、このセリフには説得力が出ます。しかしそうでないなら、それは「ビッグデータ失敗予備軍」の傾向です。
よく「データは語る」などのかたちで、さも万能であるかのように、マスコミも「ビッグデータ」を少々煽るようなストーリーを展開することがあるように感じています。データは語るかもしれませんが、実際は使う側から働きかけなければ何も語りませんし、使う側がデータを見抜こうとしなければ、何も見えません。ベンダーが提供する技術によってデータを出力すれば勝手に語りかけてくれると思ったら、確実に間違えます。
それは、今も昔も変わらないことのはずです。「ビッグデータ」によって新しくなったのは、技術の進化によってかつて不可能だったような大量のデータが簡単に処理できるようになった、ということ。誤解を恐れずに言ってしまえば、そのことだけなのです。