IT 活用に関連して、企業の講演を聴講する機会が多くあります。
先日、わたしが参加している研究会にて、ある企業の CIO によるケース発表が終わった後、同会の会長が「すごい企業は、マネジメント・イニシアティブですね」ということをコメントされました。
これは、登壇した CIO の方が所属する企業がなぜそこまですごいのかを紐解く中で、同社の社長のこだわり様が半端ではないということが分かったことを受けてのコメントだったのですが、ほんとうに仰るとおりだと思いました。
というのも、わたし自身、これまでいろいろな「強い IT ユーザー企業」の事例を聴き、必ずと言っていいほど、その企業のトップが IT に対して並々ならぬイニシアティブをとっていることを、まさに実感していたからです。
最近聴いた中で言えば、例えばある小売業の企業。
講演ではこの企業の社長が自ら、自社のデータ活用について語ったのですが、その内容に驚きました。いわく、過去の購買履歴だけ見ていても売れ筋など分からない。「売れているそれぞれの品目にはヘビーユーザーが例外なくついていて、彼らが来店するかどうかで売れ行きは激変する」。その来店がいつになるのかは「過去の履歴からは読めるはずもない」。顧客は「欲しいものを、欲しいタイミングで、欲しい価格で買いたい」。だから、折込チラシには「効果がない」し、「特売は粗利には直結しない」。
こうしたことを、社長自身が語るのです。まるでデータ分析の専門家であるかのような洞察でした。そしてこの企業は、こうした分析を社内で自由に実践できる情報基盤を、社内に整備しています。
他にも、例えばある金融系のネット企業。
この企業は、起業以来スクラッチでシステムを作り上げてきました。しかも内製で。なぜ内製かというと、内製だと固定費になるからだと言います。損益分岐を超えれば、あとは利益になる。特に金融系は、スケールメリットを出して収益を上げる業界。情報システムもそうしたほうがよい。
この企業、現時点のシステムの運用状況や構成情報などを、すべて「数字」で公開しています。それだけでなく、顧客のクレームや満足度など、あらゆる管理事項を「数字」にしています。それらをベースに、客観的に施策の判断をしているのだそうです。この「数字」を社外にも公開すれば、社員の意識はおのずと上がり、「数字」が改善されれば顧客の信頼につながると言います。
こうしたことを、社長自身が語るのです。この企業、社長自身もアイデアパーソンとなって、どんどんシステムを改善して新しいサービスを創出し続けています。それができるシステム基盤を、天塩をかけて育ててきているのです。
ほかにもたくさん例はあります。ただ、これが日本企業で一般的かというと、現状では残念ながらそうではありません。
わたしがこうした事例に触れる中で感じるのは、システムが生み出す成果のシナリオと結果にトップ自身がこだわるだけで、こんなにもアウトプットがすごくなる、ということです。
一方、IT リーダーや IT 担当者のモチベーションは高いけれど、経営層があまりシステムにこだわっていない企業があります。こうした企業の中にも時々、興味深い成功事例を創出するケースがあります。
しかし、アウトプットの鮮烈さを考えた時、わたしが感じる限りではやはり、前者と後者では前者のアウトプットがよりビジネスに直結しているし、ダイレクトに顧客の役に立っているのです。なにより、その会社の顧客が得している様子が見えるようで、聴いていて爽快な気さえするのです。
何とか、そんな「マネジメント・イニシアティブ」な会社をもっと増やしたい。思いを新たにする今日この頃です。