「ソーシャルをやらない」、大いに結構!(2012年4月)

今月は、「企業がソーシャルメディアとどう付き合うか」について、考えを少し書いてみたいと思います。

ここでは、わたしがこれまで観察したり、自ら使ってみたりした結果として、考えたことや気づいたことを書き留めておきたいと考えています。世間に逆行するようなタイトルではありますが、案外すでにいろいろなところで言われていることと重なる指摘もあるかもしれません。それも含めて、ご参考になれば幸いです。

さて、Facebook や Twitter、mixi など、ソーシャルメディアと呼ばれるネットサービスは、すでに多くの人が触れるものになりました。

ニールセン・ネットレイティングスによる、2011 年 10 月のインターネット視聴率の調査結果によれば、国内利用者数は Facebook:約 1100 万人、Twitter:約 1400 万人、mixi:約 800 万人、などとなっています。ただしこの数字は、携帯利用者は含んでいないということですから、実態はもっと多いと思われます。

このような状況を目の当たりにして、多くの企業が Facebook ページや Twitter アカウントを開設するようになっていますが、その対応に迷う企業もあるようです。

そのような迷える企業に対して、いくつかの方面からはネガティブな論調も聞かれます。「いまどきやらないなんて、考えが古い」「やらないことで、やっている企業と差がつく」「ある企業は、それでかなり集客している」「やらない方がリスク」等々。

だからといって、ソーシャルに取り組もうと社内調整を始めると、「それでどんな効果があるのか」「炎上したらどうするのか」などと言う人が現れ、苦労するという構図も見え隠れします。

さまざまな意見がある中、企業はソーシャルメディアをどう捉えれば、うまく立ち回れるようになるでしょうか。

わたしは、ソーシャルメディアにより「顧客とのコミュニケーション手段が増えた」と考えて対応するのがよいのではないか、と感じています。

例えば、小売業の方でもそうでない方でも、お店に行くとよく「顧客の声カード」という類のメモ用紙が置いてあって、そこに意見を書き込むと店の人に読んでもらえるようになっているのをご存じでしょう。また、たいていの企業には「コールセンター」や「コンタクトセンター」と呼ばれる窓口が開かれており、そこに電話をかけると企業に話を聞いてもらえるようになっています。

お店の中では人が集まることでコミュニケーションが発生します。電話は人と人と結んでコミュニケーションを行う手段です。ソーシャルメディアもまた、サイト上に人が集まってコミュニケーションが行われます。状況こそ違いますが、人が集まる「場所」であることに変わりはありません。

ですから、店舗やコールセンターと同類項で、ソーシャルメディアを捉えればよいのではないでしょうか。「そこにお客さまが大勢いるのだから、企業としてコンタクトを取れるようにしよう」ということです。

その意味では、前記したような「やらないなんて…」という論調は、必ずしも的を射ているとは思いません。これは、自社の顧客とこれまでと違った手段で意思疎通を図りたいかどうかという企業の意思の問題であり、それを顧客が喜ぶかどうかという問題です。

そう捉えれば、ソーシャルメディアに取り組むに当たって企業が考慮すべきことは、その企業が「顧客とどうコミュニケーションを取りたいのか」になります。

この問いへの答えが、ソーシャル対応の仕組みづくりの土台です。

例えば、顧客とやり取りしながら商品のアイデアを発掘したい、という目的が考えられます。顧客の困りごとにすぐに応えたい、というものもあるでしょう。一方で、悪評が表面化する前にすぐ対応して消したい、という動機もあり得ます。あまり深く考えず、ただ楽しいことを伝えたいというのも、立派な目的です。

その企業が顧客と相対するスタイルに応じて、それがソーシャルメディアを使うことで具現化されるなら大いに活用すればよいし、あまり合わないのなら活用しなければよい。それだけのことだと、わたしは考えています。

ところで、ソーシャルメディアを集客の仕組みの一部とするという向きも中にはあるようですが、わたしは必ずしも集客を中心に考えるべきではないと思います。

確かに、ソーシャルの取り組みが集客にうまくつながっている企業の例は多くあります。ただし、それらの企業を見ていると、自社のサービスなり製品なりを、あまり前面に出していないケースが多いようです。どちらかといえば、「喜んでもらえること」を教えたりやってあげたりすることでファンを増やし、それが結果として集客に結び付いている構図に見えるのです。

企業でコールセンターを設置するに当たって、「それはどれだけ集客に貢献するのか」と問う人は、おそらくいないのではないでしょうか。それと同類項で考えればよいのです。

ただし、対応すれば何らかの形でコストはかかりますから、効果のモニターは不必要というわけではありません。各ソーシャルメディアの特性をよく見極めて選択し、目指す効果を創出する必要があるでしょう。

その際、なにも無理してすべてのメディアに対応する必要はありません。

例えば Facebook は友人間の交流が主で炎上はしにくいが少々本音は隠しがちなコミュニケーション・スタイル、Twitter はユーザーがわりと本音を出しやすく人となりが出やすい、mixi は趣味趣向を一致させた若者や学生同士の交流の傾向が強く滞在時間も長い、という特性があるように思われます。

また、プラットフォームのスタイルにも特性があります。Facebook ページはホームページに近く、Twitter よりも一対一のコミュニケーションがしづらい面があります。一方で Twitter は、顧客と対話はしやすいものの、顧客ごとに個別対応が必要な面も併せ持ちます。こうした特性も、企業のコミュニケーションのしかたに影響を与えます。

こうした、各メディアの機能的な特性やユーザーの行動特性を見極めて、自社が採りたいコミュニケーション・スタイルに合ったメディアを選択すればよいと思います。

例えばもし、一番スタイルに合っているのがメルマガなのであれば、わたしはそれでよいと思います。メルマガは、読者に継続的にじっくり読んでもらうには適したツールです。決して時代遅れであるとは思いません。

もちろん、一度始めたなら継続することが重要です。少人数でもしっかりした実行体制が要求されます。特にソーシャルメディアを利用する場合、メディアは自己都合でプラットフォームの仕様を変更することがあり、その対応があることに注意が必要です。

つい先日ですが、3 月 30 日から Facebook は「タイムライン」という新機能を実装しました。これにより、Facebook ページには企業と顧客とのやり取りが時系列に表示されるようになるのですが、一方で顧客とのやり取りがあまり頻繁ではないと時系列が更新されず、活動が少ないページの印象になりかねません。

これまでホームページのようなデザインを前提にして Facebook ページを設計をしていた企業にとっては、ページデザインもコミュニケーションのあり方も、変更を迫られることになるわけです。このような追加・修正・変更・削除は、Facebook に限らず他のメディアでも起こるはずです。

ソーシャルメディアを利用する企業は、こうした変更に即時に追従し、対応していかなければなりません。そして、それを息の長いかたちで取り組むことになります。その程度の覚悟はもって、仕組みをつくるべきでしょう。

ここまで述べたように、顧客とのコミュニケーションの取り方を改めて見据え、それに合うメディアがあるなら積極的に活用して顧客とのやり取りを深める、という考えの下、仕組みをデザインしてみてはいかがでしょうか。肩ひじ張らない、気持ちの良い関わり方をぜひ目指してください。