「みんなの意見」を強力な武器にするために

今月も、ビッグデータを肴に述べてみたいと思います。

データ活用の視点に関して、最近大事だなと感じているのは、「みんなの意見」の有効活用です。企業の立場であれば、顧客の意見であったり、利用者の意見であったり、オーディエンスの意見であったりします。これは、使いかたによっては強力な武器になると感じています。

ベンダーが盛んにビッグデータを喧伝していますが、そうかといって単なるマーケティングだと軽視しすぎてもいけません。宣伝だけでなく、今後の取り組みに有用な視点も含まれているものです。

そうした有用な視点のひとつに「取得できるあらゆるデータをまるごと分析対象にできるようになってきた」ことがあり、その事例の中で、「みんなの意見」を活用するものが取り上げられることがあります。

こうしたケースですぐに思いつくものといえば、Twitter のつぶやきから企業にとって有益な示唆を得る、という話です。企業がアンケートを取るなどの方法では得られない顧客の本音や、まだその企業の顧客ではない人の意見が、Twitter では聞こえてくる可能性がおおいにあります。これを利用すれば従来得られなかった示唆を見出せる、というわけです。

たしかにその通りだと思います。ただし、ネットでは意見が偏っている人が大声を出しているケースも多々あります。言葉の使いかたにしても、きちんと文脈を読み取らなければ意味を取り違えるケースもあり得ます(例えば、「ヤバい」は、肯定でも否定でも使われています)。それに、そもそも人間には「本音」が必ずしも言葉にならない傾向があります。実際に自分自身のことを考えてみても、思っていることを適切に表現するというのは結構難しいことではないでしょうか。

少し思いを巡らせるだけでも、つぶやきをデータ分析すれば欲しい答えが得られるというほど、簡単な話ではないのだと感じます。

その一方で、「みんなの意見」をうまくつかうと結構すごいなということが、いろいろ出てきています。

例えば、ウェザーニューズが配布しているスマホ向け無料アプリ「ウェザーニューズタッチ」。同社が気象サービスを提供するとともに、そのユーザー(「サポーター」と呼ばれる)が自分の居場所の天気を報告する機能を持っています。

サポーターは2013年2月時点で400万人を超え、1日あたり2万件程度、多いときは約20万件の「報告」が寄せられるのだそうですが、こうした「みんなの意見」により、先日気象庁が外した2回の大雪予報(片や「降らない予報」で大雪、片や「積もる予報」で降らず)を、2度とも見事的中させたということです(関連記事)。

別の例でも、興味深いものを見ました。ある2つのゲームアプリ開発会社で開発されている「オセロアプリ」の対決です。片方は、布石のアルゴリズムを精緻化した「頭脳派」タイプのアプリ、もう片方は、アプリを利用するユーザーのうちで強いプレーヤーたちの布石の傾向をデータ化して利用する「みんなの意見」タイプのアプリ。それぞれの会社が「最強」と銘打つその両アプリを対戦させるというものです。結果、この対戦で勝ったのは、「みんなの意見」タイプでした。

もうひとつ、ネットの翻訳サービスも実は「みんなの意見」がベースになっていることで有名です。つまり、ネットの翻訳エンジンの基になっているのは、ネット上にある膨大な量の文書データ、いわば「みんなが書いた文章」です。それをパターン分析して、文の要素ごとに翻訳パターンのテーブルをつくるという、ごく簡単に言えばそんなことをウラで行っています。

英日翻訳などを試してみると、楽しい?!翻訳がときどきなされるときもありますが、汎用的な内容で短めの文章ならかなり翻訳精度が高いことがわかります。旅行する程度のレベルなら、翻訳アプリが載ったスマホ片手で十分かもしれません。

上記の事例、どれも簡単そうに見えて、実際は相当な分析処理ノウハウが必要です。しかしそれを操れる力を組織が得たなら、「みんなの意見」をうまく利用でき、それがかなり強力な武器になることが想像できるのです。

このとき、強力な武器にするための課題としては、「一定の質を持つデータを大量に集めること」「継続して分析し知見を更新できる基盤を構築すること」「みんなにうまく、定期的に、長期にわたって入力してもらえるようにすること」など、さまざまなものがあるでしょう。

そして、それにも増して必要なことは、この武器を有効に使ってビジネスを加速させる「発想」です。

上記で紹介した3つの例はいずれも「みんなの意見」をサービスに活用しています。このように、この手の話でよくある「マーケティング利用」ではなく「サービス」を「発想」してほしいと思います。そのほうが、武器としてははるかに強力になるはずです。

わたしにもいくつか、コラボしたらおもしろいんじゃないかと思えるアイデアが浮かんでいます。