海のものとも山のものともつかないバズワードに、「メタバース」があります。今月は、このメタバースとビジネスは相いれるものなのかについて、少しだけ考えてみたいと思います。
メタバースという言葉、実はその定義はあいまいです。それほどに、何ができるものなのか、そもそも何がしたいのかさえ、まだ誰もわかっていないように思います。だからこそ、何でもできるような位置づけで語られることが多いように思いますが、その一方で、大きな魅力を感じるようなキラーコンテンツが示されているわけでもありません。
イメージだけでざっくりとメタバースを捉えると、バーチャルな空間に社会が形成され、そのなかで自分の分身であるアバターが様々な体験や活動を行える、という感じでしょうか。かつて「セカンドライフ」という、似たようなコンセプトのものが話題になりましたが、やろうとしていることはその当時と同じようにも思えます。ただ、技術は当時よりもはるかに向上している分、現在のバーチャル空間のほうがより可能性を感じられるということで、再び注目されているということだと思います。
実際、社名まで変更してしまった旧Facebookはもとより、GoogleやMicrosoft、日本国内でもNTTドコモやKDDIなど多くの企業が、この分野をビジネスとして捉えようと取り組みを進めています。
いま現在語られているメタバースの具体的なケースは、バーチャル空間でイベントを行うとか、繁華街を再現するとか、コミュニケーションできる空間を作るとか、”斬新なデジタルワールド” といった世界観の話が多いように思います。それだけ聞いていると、特定のビジネスなら関係ありそうだけれど、その他ほとんどのビジネス領域には関係なさそうだ、と判断してしまうこともできそうです。
しかし、メタバースの本質的な部分は何だろうかと考えてみると、案外多くのビジネスと相性がいいのではないかとも考えられます。
例えばゲーム。これは言わずもがなかもしれませんが、考えてみればメタバースの空間で展開されるゲームは、従来のゲームとはかなり様相が違うものができそうな気がします。まるでそこで生きているか、戦っているか、というような状況でゲームが展開され、場合によってはゲームをしていながら、そのなかで実際に買い物をするかのようにアイテムの売買が行われ、案外幅の広い経済活動が成立することもできそうです。
エンターテインメントは想像しやすいですが、もう少しお堅いところで行けば、例えば「訓練」とメタバースの相性はかなり良いと思います。訓練というのは、職業に関連したトレーニングやOJTもそうですし、技能訓練、例えば航空機や工業機械、重機などの技能習得を行うのに、カスタマイズして構築したメタバースは使えそうです。もしかすると、一般の自動車教習のかなりの部分は、メタバースで代替できてしまうかもしれません。
体験の提供もできることを考えれば、建設や不動産関連とメタバースの相性もよさそうです。いま建設設計は、かなりの部分で電子化が進んでいます。3D CADで設計した設計データをメタバースに反映するということは容易でしょう。デザイン段階でメタバースにその建築物をリアルに再現し、バーチャル空間で顧客に体験してもらうことができれば有益です。また、街そのものを再現できるメタバースであれば、不動産物件そのものを空間に再現すれば、内見はかなりリアルにできそうです。
他にも、事前に体験することに価値があるような分野、例えば病院での検査や治療をバーチャルに再現するという用途もあるかもしれません。重い病気で長期療養する患者に向けて、どんなふうに検査や治療が進められるのかを事前に理解してもらえれば、患者の安心感は高まると思われますし、そういう情報を提供してくれる病院のほうが選ばれる可能性が高いでしょう。
医療関係つながりでいけば、メタバースはカウンセリングが必要な領域で効果的かもしれません。患者のカルテに加えて個人的なプロファイルをもとにすれば、学習済みの人工知能(AI)がその患者に適切なカウンセリングプログラムを自動で設計し、人あたりを患者に応じて最適化したアバターを介してAIが適切な対話を提供できれば、治療に役立つかもしれません。
メタバースの可能性のひとつは、パーソナライズできるところにあります。利用者の特性に応じて、同じ空間を使いながらも、見るものや触れるものを個人レベルで自在に変えられる特徴があります。それを活かせば、利用者ごとに異なった体験を提供したいものに有効に機能する可能性もあるでしょう。
メタバースは、いまのところバズワードの域をまだ出ていないと思いますが、本質的な特徴は何らかの形で今後実現していく可能性は高いと思います。みなさんも、いろいろと思考実験してみてはいかがでしょうか。