経営者なら断然注目すべき「Netflix靴下」

昨年末にNetflixが発表した、「Netflix靴下」というものがあります。

Netflixは、月額制で映画やテレビ番組が見放題になるストリーミングサービスを提供している米国企業です。米国におけるストリーミング回数総計では、YouTubeを抑えた圧倒的首位、2015年時点で会員数は世界で5700万人以上とされているサービスです。

そのNetflixが発表した「靴下」ということなのですが、何ができるのでしょうか。Netflixが提供する映画や番組を見ながらソファで寝てしまった人がこの靴下を履いていれば、靴下に装着されたセンサーがその人が眠ったことを検知して、視聴画面を自動で停止してくれるというのです。そうすれば、目覚めたあとで眠ってしまった場面から続きが見られる、というわけです。

一見すると半分冗談の交じったアメリカっぽい話のように思えるかもしれませんが、冗談ではありません。本当に使える代物です。ただし、Netflixがこれを自分で売っているわけではありません。実はサイトには「つくりかた」が解説されており、材料や回路図などと共に製作のステップが細かく示されています。

このエピソード、おもしろいニュースネタとしてただやり過ごすにはもったいないほどに、ITをどうにかしたいと考えている経営者には重要な示唆があると、わたしには思えます。

近年、「もはやITを業務効率化にだけ利用する時代ではなく、事業の拡大や活性化に活用すべきだ」ということが言われています。企業は、デジタルビジネスをいかに推進できるかが問われている、というわけです。

そのために何が必要でしょうか。単にITに詳しい人材が自分の会社にいればよいというものではありません。ビジネスとITを双方ともバランスよく理解し操れる人材が必要であり、かつそうした人材のアイデアを取り込んで実行できる社内環境が必要になります。

デジタルビジネスの実現に必要になる要素を端的に挙げるとすれば、「事業につながるアイデアの発想」「ITでできることに関する豊富な知恵」「事業シナリオにITの知恵を織り交ぜてしくみをデザインする能力」「しくみを実際に検証する体制」というものが大きいでしょう。

先ほどのNetflix靴下は、これらがすべてできているわかりやすい好例なのです。だから、経営者に注目していただきたいのです。

もちろん、このエピソードを「事業」と称するにはおこがましいし単純すぎることは確かですが、顧客の困りごとを解決しようとする方向性は同じです。

Netflixを利用する顧客が抱えているちょっとした困りごとに着目し、こんなものがあったら喜んでくれるだろうなというアイデアを発想する。それを実現する機能はITがもたらしてくれることを知恵として自ら引き出し、それを実際に創り出すシナリオを描き出す。「本当にできる」シナリオを組み上げて、あとは実行するのみにする。こうしたことがきちんとできているのです。

ITをビジネスに取り込み、デジタルビジネスを推進したいなら、「Netflix靴下」に端的に表れているような仕組みのデザインがトータルで実行できる人材ないしチームを自社に置くこと、そして彼らが行う提言に経営者や会社が耐えうること。こうしたことが要求されるのです。

この体制を整備するためのアプローチは、それほど多くはありません。社内でポテンシャルのある人材を見出して粘り強く育てるか、そういうことができる人材を見つけ出して雇用するか、その能力のある外部パートナーに支援してもらうか。

いずれの方法をとるにしても、デジタルビジネスを実現するのだという確固たる信念を経営者自身が持ち、経営者が積極的に動かなければなりません。すべては、経営者の本気度の高さがカギになっていると言えます。

現在、日本企業の多くは、その企業規模が小さくなればなるほど、自社としてクラウドをどう利用すべきなのかという判断さえうまくできないのが実態です。部下に丸投げしてよきに計らえでは、状況は何も変えられないどころか、下手をするとおかしな方向へ進んでしまって、しかもそれに気づくことができないかもしれません。

経営者に向けた、「参謀のトリセツ」

年の始めから頭の痛い話で恐縮ですが、経営に要求される能力は年を追うごとに幅が広がり、かつ知恵の深さも必要になってきていると感じます。わたしが専門とする情報システムの領域だけで見ても、最近では「AI」「IoT」「標的型攻撃」「○○Tech」「マイクロサービス」など、その奥行きは相当なものです。

言うまでもなく、経営者が関与すべきことは多岐にわたります。一人ですべてを知り尽くし判断ができるなら、それがベストであろうと思いますが、それはほとんどの経営者にとって無理でしょう。そうした知見を補うために、何らかの形で「参謀」を置くのは、いまや必須と思います。

自らのそばに参謀を置くときに、経営者の方々に間違ってほしくないことがあります。それは、「参謀に依存しない」ということです。

べつに禅問答ではありません。参謀に依頼するからといって、自らの頭脳まで参謀に預けてしまってはいけないということです。

参謀は、経営者が知らない知見や、キャッチアップが困難な情報を、経営者に授けてくれます。ただしそれは、参謀の「個人的所見」に過ぎません。経営者は、参謀の所見を聞き、内容を理解した後に、「議論する」ことを放棄してはならないと思います。参謀は、単なるシンクタンクではありませんし、そうあってはなりません。参謀の役割とは、知見を提供するのみならず、経営者と議論を深めることで、経営者のよりよい判断に貢献することなのです。

これを明確に意識していない経営者のとる行動は、次のうちのどちらか - 参謀の意見を丸呑みするか、参謀の意見を完全無視するか、です。

前者の場合、およそそうした経営者は、自らの知らないことに関しては表面的なことしか気にしません。「ビッグデータとは何だ」「ほかの会社はやっているのか」などと参謀に質問し、事例を答えると「ウチも検討しろ」と言います。本質の理解に乏しいその方針は自らの魂が宿ったことばにはなりませんので、社員に伝わりません。こうして判断された方針では、不思議なくらいに実行のパフォーマンスが上がらないものです。たかが方針、読めば(聞けば)わかるだろうと思いたくなりますが、リーダーの気持ちが方針に乗っているかどうかという部分は、測れないことですが重要なカギを握っていると思います。

後者の場合、およそこうした経営者は、新しい考えや新しい動きを、くだらないもの、自らとは関係ないもの、などと見なそうとします。面倒を押してでも新しい知識を自分のものにしようとはしないため、参謀の進言に耐えることができません。無視するということは、その根底には、感情的な拒否反応があろうかと思います。

ときに、経営者の認識よりも参謀の認識のほうが正しいことがあります。こうした状況では、経営者は自らの意見を曲げられなければいけないのですが、これは特にトップにとってはなかなか難しいことではないでしょうか。それを自然なかたちで可能にするのは、経営者が参謀の意見をリスペクトし、そのうえでの建設的な議論を通してではないかと思います。

そして議論をしようと思えば、そこには自らの知識と意見が必要になるわけです。

こうしたことに留意いただきつつ、参謀を自らのそばに置き、それでいて頭脳は預けず、その能力をうまく引き出すように、取り扱っていただきたいと願う次第です。