政府は企業に対し、従業員の育成状況や多様性の確保といった人材への投資にかかわる経営情報を開示するよう求めるそうです。上場企業は今後、有価証券報告書にそうした情報の開示を義務付けられる方向だとのことで、人材をいかに無形の「資産」にできているのかが問われるようになります。
当然と言えば当然の考え方ではありますが、従来から人的な費用はおおよそ「コスト」と捉えらえてきた向きは否めないでしょう。その意識が念頭にあることで、「人材を資産と考えて投資する」という発想には至っていなかった面があるのではないでしょうか。
その結果が、人材評価の仕組みの欠如や、人材育成に対する計画性の欠如などに現れることになります。人材は、育成する努力を何らか施さなければ、自社にとっての「資産」には転換しないものです。それがいかに優秀な即戦力人材であったとしても、会社が目指すところ、業務を動かしている体制やフロー、業界の慣行やルール、過去の経緯、抱えている課題、等を体系的に教え伝えなければ、すぐに能力を発揮することはできないはずです。
また人材が客観的に評価できなければ、育成した結果として人材を資産に転換できたか、まだ不足があるなら何が足りないのか、わからないままになります。
こうした点においては、ほとんどの中小規模の企業は後手に回っているのが実情だと感じます。わたしもこれまで、リーダーシップを誰も取ろうとしない会社、仲はいいけれどチームにはなり切れていない会社、個々のスキル不足を自覚していない会社、社員に向上心がない会社、できる人にほとんど任せて出来ない人は放置している会社、いろいろ見てきました。
どれだけ優れた業務の仕組みを持っていても、また先進的な情報システムを整備しても、それらを使うのは結局「人」です。また、これから発展していくうえでどういう方向に会社をもっていくべきか、どういう仕組みに改善していくのが適切なのか、そうしたことを考えてカタチにするのもまた「人」です。
さらに言えば、これから会社を成長発展させていこうと考えた時に、会社をドライブしていくのが人だとするならば、どういう人材が自社に在籍している必要があるのか、どういうスキルを自社に保有する必要があるのか、そうした戦略が必要になるはずです。普段から人材の育成に考えが及ばない会社では、その方針は考えても浮かんでは来ないと思います。自社には現段階でどういう能力を持った人がいて、どのスキルが不足しているのかが、見えないからです。
つまり、そもそも人材を育成しようと思えば、その前提として、人材のスキル評価の仕組みの確立と、それを使った現状の見える化は、欠かせないということです。
人材育成が進められているということは、会社が成長していっているからこそでもあります。社員が成長を実感しているなら、自然と社内の雰囲気には活気が生まれます。そうしたことは会社の外にも自然に伝わり、会社の魅力になるわけです。「中小企業だから人が集まらない、採用できない」という愚痴をよく聞きますが、実はそれ以前のところに原因があるのかもしれません。
冒頭に紹介した政府の方針は上場企業の話だからウチは関係ない、と考えるのは、この件についてはやめましょう。