いざデジタル化を本気で考えようとなった時、その会社の経営者が真っ先に考えやすいのは、ITをリードしてくれる人材を外から採用しようとすることです。
特に中堅以下の企業で、これまでITに “本気で” 取り組んでこなかった場合、社内にそれにふさわしい人材が不在であることが多くあります。育てようにもポテンシャルのある人材はいないし、いたとしても今度は育成ができる人材がいない。それであれば、いわゆるプロ人材か、大手で活躍するなど優秀な経歴を持った即戦力人材を取り込みたい。そう考えるわけです。
無理のないことです。ただし、この際に経営者がやってはいけないことがあります。それは、日本の経営者に顕著にみられる悪しき習性、「丸投げ」です。
「丸投げ」する経営者は、いわゆるプロのIT人材を雇うと、あとはその人物にITは全て任せてしまえばよいと考えます。なんとなくやりたい(が特に本気度が高いわけでもない)と思っていることだけ伝え、「何とかしてもらいたい」程度の指示しかしません。
つまり、経営者が課すITに対する要求は、ほとんどゼロ。ポリシーも指針も特になし。読んでほしいのは空気くらい、と言ったところでしょうか。
そうなると、任されたほうのプロ人材はどうするか。自分の好きなようにデジタル化を進めていきます。
「自分の好きなように」というのは、具体的には人によって異なるわけですが、ひとつ言えるのは、その企業の目指す姿を深掘りしてそれを強化しよう、支援しよう、とは ”考えない” ことです。まず、わかりやすい成果を出すこと、その次に、先進事例で取り上げられそうなネタに取り組むこと、それによってマスコミに取り上げられて有名になること。あわよくば何かの賞でももらえたら最高。およそそんなような方向で物事を進めるでしょう。
そうして出来上がるシステム基盤は、なんだか成果は出たようだけれど、そのプロ人材でしかコントロール不能で、周りにはよくわからないものになります。
このような取り組みを進めて「実績」を挙げた当のプロ人材は、自らの市場価値を高められて満足し、ほかの企業にまた転職していきます。そして残されたシステム基盤を、残った人材でメンテナンスし使いこなしていくことになります。それが難しいこと、会社がそのシステムに何となく引きずられていること、そんな負の側面は、社内で徐々に実感されていきます。
ここまでお話ししたシナリオは、外部人材を採用した場合の典型例のひとつです(ほかにもありますが、明るい話はあまりありません)。元々、経営者はプロ人材を雇ってデジタル化を進めようとしました。そんな経営者にとって、これで何が変革できたと言えるでしょうか。
実は、何も変わっていません。もしかすると、余計な資産を背負ってしまってマイナスかもしれません。しかしその要因は、丸投げした時点でつくられています。IT専門人材の問題なのではなく、経営者の問題なのです。
この「丸投げ」問題は、実はITだけでなく、営業、財務、商品企画、生産、広報など、あらゆる業務分野で起こっていることです。それもそのはずで、同様な考え方でプロ人材に丸投げすれば、他の業務でも同じシナリオになります。それにより、経営は現場のことがよくわからず、現場は自分の持ち場のことしかわからず、それぞれが個別のやり方に固執する部分最適が横行する会社となります。
そういう会社は、デジタル化を考える以前に、経営者が一念発起して社内を変え、全体を俯瞰し統率できる立場を取り戻す必要があります。それができていないなら、どんなプロ人材を入れようが、どんなシステムを導入しようが、ビジネスに永続的な進化をもたらすことはありません。
デジタル化を始めるなら、まず経営者が「丸投げしない」と心に誓うことから始めていただきたいのです。デジタル化について自ら徹底して考え抜き、自らが思うデジタル化を、自分が主導して進める。そういうポリシーを持ってから、人選していただきたいと願っています。