ITをビジネスに活用してイノベーションを実現する経営?

標記のタイトルのようなことが盛んに言われていますが、この言い回しに憧憬を覚える経営者はイケてないと思います。

そもそもタイトルのような言葉を発している人物は、IT業界の関係者か、IT業界を取材しているマスコミ関係者のおよそいずれかであることに気付くべきだと思います。どちらでもないとしても、IT業界を社会的に引き上げたい思惑では一致している人物でしょう。もちろん、それ自体に害があるとは思っていませんが。

実は、いわゆるITを駆使する経営を実現している経営者と、そうでもない経営をしている経営者、それぞれからお話を聞くと、ごく表面的な部分においてはそれほど違いがないことに気が付きます。

というのも、あえて話を振らないかぎりは、どちらも自分からITや情報システムの話はしないのです。

ただし、そうする理由には大きな違いがあるのです。ITの話をこちらから振ってみると、その違いが分かります。

前者の場合、興味の中心はITそのものにはなくて、実現させたいプロセス、サービス、提供価値にあります。ITが駆使できている企業というのは、ビジネスとITの整合性が見事に取れています。そのため、ITとは「あるのが自然なもの」と見なされています。すでにシゴトの一部になってしまっているので、直接的な意識はITそのものにはなく、むしろITという技術をどのように自社のビジネスのしくみに取り込むかに関心があるわけです。

ですからITの話を振ると、「いや、ITを使うのなんて当たり前だから、特別なことはしていない」という態度を根底に持ちながらお話をされます。技術的なトレンドを把握しているのは当然、さらに自社で実験や検証もしているので、新聞より詳しいという方も珍しくはありません。

そうした経営者に、大きな成果を挙げている取り組みについて、「それはどうやって実現しているのですか」と問いかけると、そのとき初めて、その取り組みで活用している技術をくわしく(しかも、嬉しそうに)説明してくださるのが特徴です。

一方、後者の場合ですと、ほとんどにおいて「ITをもっと使いたい、使ってみたい」という話になります。「~したい」という言葉が出るのが特徴です。

会社として明確な設計意図をもってITを利用していないため、ITを使うことはある種特殊なことであるという意識がどこかにあると思われます。ですから、バズワードだけは新聞で読んで知っているけれど、自らにどう適用できるのかイメージがわかないし、自ら考えてみようとも思わないので、「利用希望」に留まるのです。

「ウチはビッグデータはどうなっているのか」「最近AIの話をよく聞くが、ウチでも検討してみろ」などとおっしゃる経営者は、およそこの部類に入ると思われます。こういう企業の場合は、ITを駆使することを考える前に、もっと根本的な考えかたを改変していただかないと、真の意味で「ITをビジネスに活用する企業」にはなれないと思います。

上記のことは、少なくともわたしのなかでは、その企業がイケてるITユーザー企業なのか否かを判断するのによい基準のひとつになっています。