ソウムAI

「なにかイイネタないかなぁ」と思って、このコラムを執筆するアイデアを、半分くらい眠くなりながら、あれこれ思いめぐらせているうち、ボンヤリと浮かんだビジネスについて、今月はぼんやり書いてみたいと思います。

そのアイデアを端的に申し上げれば、「企業の総務部の業務を AIエージェントにほとんど担わせることができるサービス」というビジネスができないかな、というものです。ちなみに、このコラムのタイトルはいま流行りの ”サカナAI” にあやかって名付けてみましたが、事業内容は全然マネしてはいません。

ここから先の文章には「AIエージェント」という言葉がたくさん登場しますが、ここでは「得意技をそれぞれ持つ複数の生成 AI が、チームになったもの」くらいに解釈していただければ十分です。もし AIエージェントの詳細にご興味があれば、お手持ちの Copilot(生成 AI)に聞いてみてください。

総務の仕事といえば、総務の担当者でもない限り、あまり具体的に想像したことがある方は少ないかもしれません。実は、かなり多岐にわたります。それもそのはずで、総務が担う仕事とは「社内の業務部門がやらない仕事すべて」だからです。入社時のガイダンスや研修、社内の各種手続きの案内や手配、社外(主に役所関係)向けの定型的な手続き、社員向けの問合せ対応、税務社会保険など定期的な手続きの案内や取り纏め、定期健康診断の調整や取り纏め、社内行事の手配や調整、社内の規則や規程類の文書管理、オフィス内の備品管理、オフィス環境の整理整頓の管理、福利厚生への対応、等々。総務の担当者でさえ、自部門の業務をすべて分かっているわけではないこともあります。

それほどに頭も使うし気も遣う、会社の縁の下の力持ちとしての業務であるにもかかわらず、陰に隠れた存在ゆえに「総務担当者募集」と人材を募ってもなかなか人は集まらないのが実情ではないでしょうか。

そうした広範で複雑化しやすい業務を、基本的に電子化し、電子化できたタスクについて、AIエージェントが主体になって業務を担うことができるのではないか、というのがアイデアの肝です。総務の業務に特化した LLM(大規模言語モデル)を独自に開発し、依頼を受けた顧客企業に持ち込んで、個社の事情や環境に合わせて半年から 1 年程度かけながらファインチューニング等を施します。環境構築の結果、精度が十分上がり、AIエージェントが業務をほぼ代替可能になったところで、運用サポート契約に移行し、顧客企業に適宜支援を提供しながら継続利用していただきます。

ソウムAI は、社員や外部業者とのインタフェースを担うスーパーバイザーのエージェントと、個別のタスク分野を分解しそれぞれを専門的に担うスタッフエージェントを組合せ、エージェント同士が連係してタスクを処理し対応を行う仕組みです。

結果的に、顧客企業の社員は、総務に頼っていたほとんどのカウンター越しの用事を、専用の AIエージェントを通じて済ませることができるようになります。また、業務委託されている事業者も、総務部への連絡や報告など簡単なやり取りは AIエージェントに行って完了できます。

業種によっては特殊なタスクがありえるかもしれませんが、およそ総務の業務は共通性が高く、個別のタスクにかかるプロセスや情報フォーマットが業種を問わず固定的・反復的なものが多いです。LLM をベースとした生成AI の得意分野でカバー可能な業務領域と見込まれます。それでいて、総務がカバーする業務範囲は先に申しあげたとおり「社内の業務部門がやらない業務」で、かなり広範にわたります。

また総務には、法改正が発生した際の対応や、会社に関わるリスク情報の把握と対応、といった任務も重要です。そうした情報を収集し認知する仕事や、その対応策を検討する業務も、AIエージェントが支援できるでしょう。ソウムAI のサポートサービスとして、LLM や専門情報 DB(RAG と呼ばれます)を定常的にアップデートして提供すれば、その価値をもって月額料金制でサービス提供する理由が生まれます。

多くの事務処理を AIエージェントが自律的にこなすことができれば、人間の担当者は、業務環境整備に向けてよりクリエイティブな役割に専念できるでしょう。そしてそこでも、環境構築や企画立案へのアイデア創出に、AIエージェントが助言や情報を提供することができます。環境整備に関する内外の情報やトレンドを集約し助言提供することに特化したスタッフエージェントを追加提供すれば、実現できると見込まれます。

このときに、例えばオフィス家具製造企業などと提携して情報を連携し、彼らのマーケティングに貢献できる仕組みを整えれば、事業として別のビジネス領域への拡大にもつなげられるかもしれません。

どんな会社にも総務部は存在し、たとえ社員数名程度の小企業であっても総務関係の仕事は存在します。マーケットは極めて汎用性が高く、日本国内だけでも 100 万社のオーダーと見込まれ、業種は問いません。いまのところ、マーケティング、営業、商品・サービス企画、コンタクトセンター、といった業務領域については、生成AI によるサービスの活用を促すプレイヤーは数多く確認できますが、「総務」と言っているプレイヤーは、個人的には寡聞にして知りません。

先行者利益で学習の蓄積を進め、他の事業者から目を付けられる前に学習データとノウハウの蓄積に成功できれば、顧客を先行的に獲得して確保し、参入障壁も築きやすくなるかもしれません。AI をビジネスにするならば、AI モデルの精度と洗練度は最大の競争力の源泉です。いちど顧客化できれば乗換は発生しにくいサービスと思われ、その意味では先行して顧客を獲得できれば、それだけ学習データの面でも差をつけられ、より競争力が増強されると見込まれます。

書いているうちに、目が覚めてきました。このままできるかどうかはさておき、筋はそれほど悪くはないように思いますが、だれかが本当に実現してくれたら愉しいですね。