”伴走支援もどき” と中毒症

近年の DX や AI にまつわるニーズを受けて、国内でのビジネスコンサルティング事業は活況なようです。業界はここ数年 2桁パーセントの右肩上がりで成長を続けているといいます。そんな業界環境なせいか、新興のコンサルティング会社を多く見かけるようになりました。

そして新興か老舗かに限らず、コンサルティング会社はどこも挙って「伴走支援」を掲げているようで、一種のブームのような様相です。つまり、精緻な分析や海外のベストプラクティスを基に「あなたがたはこうあるべき」などと御託を授ける教授スタイルではなく、顧客企業の側に立って共に歩み、顧客が自走できるようになるよう能力開発を助ける支援を目指す、としています。

本当の意味でそのような支援が実行されているなら良い傾向といえますが、わたし個人が実態として知る限りにおいては、多くのコンサルタントはいまだに従来同様「業務代行」していると思って見ています。

それも実は、無理からぬ話です。巷でよく聞かれる顧客企業の要望というのは、典型的には次のようなものだからです。「○○業界の企業の責任者への人脈を紹介してほしい」「アドバイスではなく実務に対応してほしい」「エンジニアがいないのでプロジェクトを現場でリードしてほしい」

顧客企業のオフィスに常駐し、机を並べて「伴走支援」しているコンサルタントの多くは、実態として顧客の代わりに、資料作成、データ抽出や整理、情報分析、会議の取り纏め、などの実務の肩代わりを行っています。しかしこれは、少なくともわたしが定義するところの「伴走支援」ではありません。顧客が主体的に担うべき業務の「代行」です。

当社では、代行任務はすべてお断りしております。顧客のためにならないからです。

率直に言えば、コンサルティング会社の経営者として事業拡大を企図するなら、代行を請けたほうがビジネスとしては有益です。なぜなら顧客の困りごとの多くは、前記のとおり「代行してほしい」なのですから。

それをわかっていながら、代行の依頼はすべてお断りしています。なぜか。当社のミッションである「お客さまのビジネスシステムを強くする」を踏まえた行動を遂行するにあたり、顧客任務の代行は、顧客のビジネスを強くするどころか、結果的には弱くすることになるからです。

これは、人間社会に存在する構造的問題の典型のひとつです。ある問題を是正しようとしたときに、即効性があるように見える短期的な方策を解決策に採用するけれど、そういうお手軽な方策を選択するほどに、より根本的な問題を見て見ぬ振りするようになり、時間がかかる根本的解決策に手を付けなくなる。実は根本的解決策を打たなければ、その問題を根絶することはできない。それに気づいていてもいなくても、お手軽な策に一度味を占めると、次にまた問題が出ても、手近で安易な対症療法にばかり手を出すようになる。

そういう状態にある組織に根本的解決策を唱えると、それは「正論」だと位置づけて忌み嫌い、避けようとします。正論を振りかざす、というフレーズにはネガティブな響きがあり共感を呼びそうです。しかしこの状況においては単に、本質的な問題から逃げようとしているだけのことです。

このような問題構造に一度嵌ってしまうと、最終的には、根本的な解決策を自らの手で打つ能力さえも失ってしまいます。要するに「中毒症状」と同じ構造なのです。アルコール中毒、麻薬、ギャンブルなどの依存症の問題構造を想像してみてください。

コンサルティング会社にとっては、顧客企業が自社に「依存」してくれる構造が生み出せますから、ビジネスが安定し大変に有益です。しかし、顧客の側からすればそれは中毒症状であって、コンサルティング会社がいなければ業務が破たんする状態、コンサルティング会社がいなければ戦略も計画もまともに立てられない状態、になっていくわけです。わたしはこれを指して「顧客のためにはならない」と言っています。

「コンサルティング会社が代行してくれてうまくやってくれるのを、うちの社員が端から見て学ぶのだ」というようなことをおっしゃる向きもあるのは承知しています。少なくともわたしはそのようにして、本当に学んで自走し始めた会社をまだ知りません。思うに、ふつうの人間なら、非常にうまく仕事を捌いてくれる人たちを見て、彼らなしに自分たちだけで問題に対処する方法は学びません。彼らに任せておけばよい、と考えるのがフツウです。パソコンメーカーが効率よくパソコンを製造して供給してくれるのを見て、「パソコンを自作しよう」と思う人がどれだけ多いか、想像してみてください。

わたしは、本来コンサルタントというのは医者と同じだと考えています。医者は、患者の病気が治れば任務完了になります。完治した患者にいつまでも医療行為を継続することはありません。顧客のステージが上がった結果として新たなレベルの課題が生じたというなら別のコンサルティングになるので良いですが、そうではないのなら、課題を解決すればそのコンサルティングは完了なのです。同じ依頼で何年も顧客企業に常駐しているということは、自分が関与しても問題がいつまでも解決していないことを意味することになります。

任務代行を施せば、顧客は課題を根本的に解決できるリソースもケイパビリティも身につけられないどころか、身につける機会も学習能力も奪われると、わたしは考えています。課題の根本はいつまでも解決されず、顧客は半永久的に、その課題のモグラたたきを続けることになるわけです。しかも大抵、モグラは年々増殖し、土壌をむしばんでいきます。最後にどうなるかは、想像が難しいことではないはずです。

当社としてはそういう信念で事業をしているのですが、なかなかこうしたことを理解しない企業や人が存在することも事実です。それはそれで仕方がないことではあります。