「経営者はITを熟知するべきか」という命題は、さまざまなところで議論されています。先日のみずほ銀行での大規模障害の際にメディアが主張していたように、たいていは「理解すべき」という答えが導かれます。しかし、それならプログラマーのように知るべきなのかというと、これはだれもが否定するでしょう。
結局、どこまで知っておけばよいのでしょうか。実はその答えは、経営者の置かれた状況や行っている事業によって異なるのです。極論すれば、プログラマー上がりの経営者が「あなたは理解不足」と言われてしまうことだってあり得ます。
ですからわたしは、この問いは建設的に答えることができない愚問だと思います。
経営者がこの問いに対処するなら、その表面的な部分に囚われるのではなく、「考え方」を覚えておくことをお勧めしたいと思います。その「考え方」とは、「ITは、儲けに貢献しているのか」と聞かれた時にどのように回答して相手に感心してもらうか、という視点です。
少し掘り下げて考えてみます。事業とは、経営者のアイデアや構想に、資金を投じて仕組みをつくり、組織が実行することだ、といえるでしょう。式にするなら、「事業=構想×資金×仕組み×組織」です。どれかがゼロになれば、事業もゼロ、ということです。
ITはこの要素のうちで、構想の実現に直結する「仕組み」に貢献します。おおよそは、次のような形で貢献しています。
- 「儲けの仕組みそのもの」。例えば、銀行の業務やネット企業の事業は、ITなしでは成立しません。
- 「仕組みを圧倒的に実現するもの」。圧倒的な量をこなす、圧倒的なスピードを出す、圧倒的な範囲をカバーする、圧倒的な効率を出す、というように、ITを用いることで圧倒できるケースです。
- 「仕組みのリスクヘッジをするもの」。ITがあることで人的エラーが防止できる、重要な情報が容易に保管保存できる、他の場所に簡単に移設できる、などの効果をもたらします。
経営者のアイデアは、時に独創的です。それは、経営者の頭の中にしかありません。
当然、単に頭の中にあるだけでは儲かりません。だから「仕組み」、すなわちシステムにしなければなりません。システムにして初めて、アイデアの実行ができるわけです。
アイデアを、想像した通りに、または想像以上に実現するには、まともなシステムが必要です。そのシステムに、たいていは IT が援用されます。
ですから、もしまともなシステムの実現にこだわっているなら、「IT は、儲けに貢献しているのか」と聞かれた時に「待ってました」と思えるはずです。なにしろ、システムがまともでなければ、単なるアイデアで終わってしまうどころか、足を引っ張られるかもしれないのですから。
そして結局のところ、「IT は、儲けに貢献しているのか」に嬉々として回答する経営者に、「IT の理解不足」というレッテルが張られることはありません。
さまざまな IT の成功事例で、ほぼ例外なくその背景にトップマネジメントの強いリーダーシップがあるのは、実はその企業の経営者がアイデアの実現(execution) にこだわっているからです。
経営者のかたはぜひ一度、すぐに答えが言えるか試してみてください。あなたの会社の IT は、どのように儲けに貢献していますか?