成果を問わずに成果を目指す「胆力」(前)

新聞に「AI(人工知能)」の話が頻繁に出ているのを見るにつけ、それとなく焦りを感じている経営者の方がいるかもしれません。

金融機関や製造業を筆頭に多くの大手企業がAIを活用した仕組みを開発し、話題になっています。それに伴って、その開発を支援するベンチャー企業もちらほら名前が目に付くような印象です。適用分野はなかなか多彩で、事務処理の分野から、建設や農業、水産業といった分野にまで広がりを見せています。

マネして追随したくなりますか?うまく行ったら「先端を行く企業」と称賛されるかもしれませんね。ただ、AIの採用や導入には経営者の「胆力」が必要であることを、ぜひ知っていただきたいと思います。

AIの開発に利用できるソフトウェアやクラウドサービスは、急速に充実してきています。技術力のある人がその気になれば、無料でも結構なレベルまで試作することも可能です。少し投資ができるなら、AIを得意にしているベンチャーやベンダーなどと組んで、何らかの実証システムを組むことも難しくはないでしょう。

ただし、AIの開発に一番必要なものは、システムではなく、データです。しかも「使えるデータ」が必要なのです。

およそいま手元にあるデータというのは、AI向けに利用したい目的とは異なる目的でデータ化されています。ありものをそのままAIに食べさせても、実は満足には使えません。

例えば、オークションサイトには品物の写真が大量に存在します。この品物がブランド物である場合に、本物か偽物かを判定したくなるとしましょう。写真がたくさんあるのだからAIに判定をやらせればラクではないか、と思うのがフツウの考え方です。しかし、いまサイト向けに持っている画像を真偽の判定に使おうとすると、画質や撮影の角度などが問題になってうまく行かない、ということが起こるのです。

AIにはデータが不可欠です。しかも、ただのデータではダメで、「使えるデータ」でなければいけません。用意するのは、他ならぬ自社自身です。「使えるデータ」を揃えられるようにするのが、まず大変なのです。

仮に使えるデータが集められたとしても、それだけでAIによるアウトプットの精度が保証されるわけではありません。それはまた別の問題になります。

少々乱暴に説明してしまえば、AIには「モデル」と呼ばれる分析のシナリオを組み込む必要があります。「モデル」がAIの実体、と言ってもいいかもしれません。

このモデル構築、少ない要素で簡単に筋書きを見出せるような分析テーマであれば、それほど苦労しないかもしれません。一方で、判断が感覚的であいまいなテーマであるほど、モデル構築の難易度が上がります。

AIにやらせたいことは説明が簡単でないことなのが通常です。従って判定したい現象をモデル化するには、試行錯誤が必要、つまり、時間がかかります。そんなに簡単にアウトプットの精度は上がりません。

…と、ここで例を挙げて説明するつもりのところなのですが、以降の文章が長くなってしまいましたので、続きは来月にします。もしよろしければお待ちください。