「ビジネスのデジタル化」も、いつか来た道

「デジタルビジネス」やら「ビジネスのデジタル化」やら、そんなフレーズが様々なかたちで耳に入ってきていることと思います。マスコミが連呼し始めるにつれ、急に焦りを感じ始める経営者の方もいるかもしれません。

ここで短絡的に「デジタル化を何かやれ」と社内で言い出す前に、デジタルビジネスとはどういうことなのか、まず考えを深めてみてください。

会社や事業にデジタルを取り込むとは、どういうことでしょうか。いま流行りのAIだとか、IoTだとか、RPAだとか、そういった技術を導入すればデジタル化は成就するのでしょうか。

デジタル化とは言いますが、新しい話なようでいて、行われることの実態は昔からある「機械化」と何も変わりません。人の作業が機械で実行できる、それによってビジネスのあり様まで変わる、というのが本質です。

機械化は、これまでも人間の働き方に大きな変化をもたらしてきました。

18世紀半ばから19世紀にかけて起こった産業革命では、産業機械や動力技術の発達により、従来の手作業ではありえない生産性を実現することになりました。大量生産と大量流通の実現により労働者の働きかたも大幅に変わることとなり、それが「仕事を奪われる」恐れを生み、労働者の暴動に発展することもありました。

もう少し最近で言えば、かつて電話が贅沢な通信手段であったころ、電話回線の接続は交換手という労働者たちの人力で行われていました。この仕事のしかたでは加入者の収容に限度がありましたが、自動交換機が発明されて以降、従来とは比較にならないほどの数の加入者を安価に収容することができるようになりました。電話が一般に普及する一方で、交換手という職業は姿を消しました。

つまり、デジタル化もまた機械化と同様に、会社のアウトプットのしかた、業務のしかたを大幅に変革する取り組みになるということです。歴史が示すとおり、デジタルにしてお手軽に完了する話ではないのです。そして、現代のコンピュータがもたらす技術的インパクトは、過去の機械のそれと比較にはなりません。そう考えれば、過去よりもより高度で複雑な成り行きを想像しなければならない状況にあるはずです。

従ってデジタル化に取り組むのであれば、会社としてそもそもどういう未来を追求するのか。そのアウトプットは世間に役立つものなのか。そのアウトプットのために自社のビジネスのどの部分に何を適用すればよいのか。どこまでデジタルを追求すれば目指すものに適うのか。それによって仕事のしかたをどう変えるのか。その変更に自社はどう適応できるか。そのような思考のもとで、自社のビジネスのしくみをまず考え直す。それが、デジタルよりも先にやることであるはずです。

その考えが浅いうちに世間のバズワードに踊らされると、その「デジタル化」は、コストはかかっても大した意味は出せない、むしろ混乱しか招かない、よくある悪しきIT導入と同様に終わることでしょう。

見かたを変えれば、普段からビジネスのしくみを意識し、シゴトのしかたをつくり上げてきている企業にとっては、デジタル化は結構ラクに対応できるトピックなのです。いま「デジタル化」で顕著な成果を挙げている企業は、およそそういう企業です。