足りないIT人材、差を生む行動

先日、大学で受け持っている講義で、ITを活かしてビジネスをリードできる企画人材は社会的に不足していること、そうした人材は探してもなかなかいないので、難しくても企業内で育てていくことが必要、と話したところ、ある学生(といっても社会人の学生です)が、「そもそも人材が不足している中で、そういった人材を育成出来る人が企業内にいるのでしょうか」と質問をしました。

おそらく多くの企業の経営層も彼と同じような発想をしているのではないだろうか、と思いました。

人材不足は、日本に限ったことではありません。欧米に比べて日本の企業はITが遅れているという論調は、よくマスコミの報道で見受けられます。確かにそういう側面はあると、わたしも感じます。ただし、欧米の企業は日本と同じことで悩んではいない、というわけではないようです。

例えば欧州に関しては、こんな記事が出ていました。

「最近の調査・研究では、ヨーロッパのIT分野におけるリーダーの指導者としての素養・力量はかなり低い、という結果」
「国家レベルでこの問題に適切に取り組まなければ、EUのICTの専門家は2020年には82万5000人が不足すると試算」
「欧州の多くのビジネススクールや大学が「eリーダーシップ」養成のプロジェクトを検討している」

米国に関しても、社会的に人材は足りているという話はあまり聞きません。例えば、こんなデータがあります。

「(CIOに調査した結果)39%がデータ分析スキルが自社に不足していると回答、続いて32%がプロマネ、28%がビジネスアナリシス、27%がサイバーセキュリティと回答」

つまり、人材は世界中で不足しているのです。

必要であるにもかかわらずこれだけ不足しているからこそ、自分で考えて実際に行動を起こしている企業が先を行っている、ということではないでしょうか。

経営者であれば、担当者と違ってさまざまな手を打てる力を持っているはずです。人材そのものを調達するなら、雇用、コンサル、業務提携、時限的に委託、いろいろあります。

いまスキルがなくてもやる気はある人材がいるのなら、幸運です。世の中にはシステム企画のうえで参考になるフレームワークや標準もいろいろ公開されていますから、そういった情報を知って、社内に勉強を促すこともできます。

最もまずいのは、ビジネスとITは直接絡まないという、致命的な誤解です。ITには一切頼らない、という奇特な決意をしている企業でない限り、ITと関わりが不要な企業は、現代では存在しえません。

そうであるなら、自社で使うITは「使える情報システム」にしたいはずです。ところが、自社にとって「使える情報システム」というのは、自社が実践するビジネスの仕組みからしか生まれないのです。

そして結局のところ、自社のビジネスを進化させる企画力を持つには、いまの自社のビジネスの仕組みが可視化できることがキモで、これができるのは社内の人材だけです。だから、社内の人材が自分でシステムの絵を描けなければ、将来が危ういわけです。

ビジネスを洗練させていくうえでどれだけ仕組みやシステムが重要であるか、それに対してITがどれだけのポテンシャルを持つと考えるか、という認識の差が、何らかの手を打つという行動の差を生むのだろうと思います。

冒頭の質問をした学生には、「育てるのが簡単でないことは講義でも述べている通りですが、そこで思考停止するかどうかが分岐点」だと回答しました。