あなたの会社に「欲しいデータ」は整っているか

近年盛んにIT活用が取り上げられている分野に、農業があります。農場や農機にセンサーやカメラなどを取り付け、データを取得することで、農作物の生産品質の向上や作業効率化を図る、という取り組みです。

さまざまな事例が出てくるようになっていますが、同時にさまざまな課題もあることが分かってきているようです。そうした事例を見ていると、ほかの業界でも例外ではない、ITを活用するうえでの重要な課題がいろいろと理解できます。

例えば、「欲しいデータを正しく取る」という課題です。これは、1つの課題に見えるかもしれませんが、2つの課題について述べています。

農業の事例においては、データの取得にセンサーやカメラを使っているというのは、先に述べた通りです。こう言うと、機器を設置すればあとは自動でデータを採ってくれるように感じられますが、実はそんなにシンプルなことではありません。設置するのはいいですが、「こちらが思っている通りにデータが取れる」ということが保証される必要があります。

つまり、機器を設置したところで、環境的な条件でうまく機能しないかもしれないのです。例えばカメラを農地に設置したところ、そのカメラにクモが巣を作ってしまって映像を撮るどころではなかったというエピソードがあるくらい、自然を相手にして根本的な問題に突き当たることがあるわけです。

なにもこれは、農業だけの問題とは限りません。センサーの感度、カメラの向きや解像度など、場合によってはそうした要素の微妙な違いが、自社が欲しいデータの条件に大きく影響してくることは十分考えられると思います。都市部においても、設置環境は大きな影響を与える要素になり得るでしょう。

そうした条件をクリアして、とりあえず物理的にデータは取れるようにできたとしても、今度は「そのデータは本当に欲しいデータなのか」も保証されなければなりません。

農地において気温や降水量などのセンサーデータを取得するのは、当たり前のことのように思えます。しかしそれらのデータは、例えば農作物の品質向上などの目的を果たすのには結果として役に立たないかもしれません。役に立たなければ、そのデータは取っていても無駄ということになります。

試行錯誤してさまざまなパラメーターを試した中から、ある特定のセットだけが役に立つデータであった、という結論になるわけです。それができてようやく、「欲しいデータ」にたどり着くことができたことになります。「欲しいデータ」とは、最初から何の苦労もなくわかっているとは限らないのです。

このあたり、事例の中には、初めから科学的に裏付けのある理論を背景にデータを取得し、検証するという取り組みもあります。そうした方向性なら、もしかすると結果は出しやすいかもしれません。

ただし農作物などは、収穫が年に1回などの場合は特に、成果が見えるのが年間で限定されてしまうケースが多々あります。試行錯誤するにも、相当な時間がかかるということです。しかも環境条件が一定せず、それによって結果が左右されます。

こうして見ていくと、センサーデータがいくら蓄積され分析できたとしても、それだけではまったくうれしくはない実態が理解できるのではないでしょうか。

こうした状況は、農業分野に限らないのではないかと思います。ITを活用するうえで、データの質と量はその根幹を成します。

ITの業界には、”Garbage in, garbage out”という言葉があります。ITの話ではその機能に注目が集まりやすいですが、実はデータこそ重要です。入力データがゴミならば、機能がどれだけ先進的でも、出力されるデータは間違いなくゴミなのです。それがゴミか否かを判定するのは、そのデータと、そのデータを使った活用シナリオによって生み出される、ビジネス上の成果にほかなりません。

勘のよい方はお気づきかもしれませんが、今はやりのAIもまた、同じような話が当てはまります。

経営者のみなさんには、ぜひ自社を振り返っていただきたいと思います。会社の成果につながる「欲しいデータ」とはなにか定義ができるか。欲しいデータがきちんと社内に整備され、維持されているか。そしてそのデータは、実は「ゴミ」になってはいないか。