前々回、および前回のコラムで、企業がデータ分析活用を成功させたケースやうまく行っていないケースを概観し、そのパターンやポイントの考察を簡単に紹介してきました。今回は、まとめとして、結局企業は、データ分析に対してどのように対応していくべきかについて、わたしの現時点での見解を述べたいと思います。
実はこのことは、いま企業に要求されているITへの関わりかたが、大いに関係していると見ています。
一般にデータ分析というと、社内外のデータをいわば「拾ってきて、集めて、よく見てみる」という感覚で捉えられている雰囲気を、個人的には感じています。しかし、成功している企業には、そういう態度はありません。
実際に少しでもデータ分析を試してみるとわかることですが、社内外にデータはそこそこあるかもしれないものの、「有用なデータ」となると、思ったほど存在しないものなのです。
では、成功している企業は「有用なデータ」をどう調達しているかというと、「自分でつくって」います。
アンケート調査を自ら実施する、現場に行って測定する、持っているデータに2次属性を付けたり簡易計算したりして加工する、など、さまざまなテクニックや工夫をして、専門的知見を取り入れながら自分たちでデータを考えだし、生み出しているのです。
データ分析活用において、かなりアートな感覚も要求されるこうした創意工夫の態度、そしてその取り組みを長い目で支援する組織の存在は、非常に重要と言えます。
前々回に紹介した統計調査結果を見て推察できるように、「ビッグデータは自分たちには関係ない」と思っている企業は、少なくないようです。ビッグなデータを持っているとも思わないし、持っていてもコストをかけて分析する価値を感じない、と考えているように見受けられます。
しかし実際のところ、データを分析する価値は、自然にわいてくるものではありません。自らアクションを起こして、ビジネスの視点で活用シナリオを描かなければ、価値は見えません。
また、データがビッグかスモールかは、あまり問題ではありません。最新版の Excel で実行可能な範囲の分析で、要求が十分満たせることも少なくないのです。
消極的な企業の中には、そのうち誰かが方法論をまとめてくれたら真似してみようと思っているところもあるのかもしれません。しかし、成功企業はいずれも、自ら試行錯誤したうえで、自らにとって有効な方法を独自に見出しています。これは自らの努力で勝ち取るノウハウです。誰でも成功できるような便利な方法論は、いつまでも出てくることはないでしょう。
そして重要なのは、「過去とは違って、いまは簡単にデータを取り扱うことができるようになった」ということです。過去においては相当に高価で手が出なかったBIツールが安価に手に入るようになり、なかにはフリーのものまであります。バイト当たりのハードディスク単価は劇的に低下し、分散処理技術も充実、大規模でデータを扱いたいならクラウドも使えます。その気になれば、特殊能力がない一般企業でも相当なレベルまでできてしまう手軽さに落ちてきているのです。
世の中でバズワード化した「ビッグデータ」の本質とは、実はこれであると、わたしは考えています。だからこそ、データを操れる企業とそうでない企業との間では「突出した差ができつつある」のです。結果として、本気でやって成功した企業には、将来も継続して強みとなり得る能力が身につくことになります。
データ分析活用におけるITは、従来にあったような「導入するかどうかのIT」ではありません。いまの時代に企業に要求されているのと同じく、「どう使うかを考えるIT」と見るべきでしょう。データ分析活用もまた、「IT活用はあらゆる面ですでにそういうフェーズになっている」ことを示す、ひとつの例なのです。
もちろん、本気で取り組むかどうかを検討した結果として、企業によっては「やらない、必要ない」という選択もありえるだろうと思います。いずれの選択をするにしても「確信をもって」判断する必要があるでしょう。「やらない」判断をして誤った場合の代償は、大変大きなものになると想像できます。
一方で、「やる」という判断をしたとしても、「判断したから、あとはよろしく」とは行きません。
データ分析のビジネスへの活用レベルは、経営層が持つビジネスの視点と、経営層による具体的行動、データ分析能力へのリソースの投下と、それが創り出す体制や仕組みに大きく左右されます。データ分析のチカラを企業が取り込もうと思うなら、現場が成果を挙げるのを経営層が『黙って待っている』のでは成功確率がかなり低いことは、事例が示しているところです。やるのなら片手間ではなく、本気で、息長くやる覚悟が求められるものと理解したいところです。