ある訪問先の経営者に、社内の人材のITスキル育成にあたって何をさせるのがよいか問われ、わたしは「資格を取るよう奨励すること」をお勧めしました。
IT関連の資格・試験制度は様々にありますが、わたしがお勧めしたのは、IPAが実施している国家試験である「情報処理技術者試験」です。
相談を受けた会社もそうですが、中小企業レベルではITの活用は一定の技術レベルにとどまり、かつ範囲も限定的です。それは、会社の中で経験できる実務がかなり限られることも要因のひとつですが、内部の人材の知識量がそもそも乏しいことも、実情としてあると思います。
大手ユーザー企業や大手ITベンダーなどに勤務する社員であれば、かなり広範囲に、規模も大きくレベルもかなり高いシステムを取り扱いますから、その分多くの実務機会に恵まれます。運がよければ、仕事をしているだけでかなりのスキルを身に付けることも可能です。
中小企業では、残念ながらそうは行きません。加えてさらに都合が悪いのは、実務の内容や質が偏りがちであることです。
情報システムのライフサイクルには、戦略・企画・計画・調達・開発・導入・テスト・切替・運用といった流れがありますが、中小企業ではこうした流れを意識することがほとんどなく、ITが利用されている実態があります。導入はするけれどまともな企画をしたことはない、調達はしてみたけれど運用しているつもりはない、等々。本当は考えなければならないのに考えていない、考えるべきであることさえ知らない、という実態があるわけです。
当の担当者たちは、自分たちが知識不足だとはあまり思わずに、一生懸命仕事をしています。しかしながら実は、本人たちはやっているつもりでいて、本当の意味ではできていないことが往々にしてあります。例えば、運用しているつもりだけれど、実態を観察してみると、やるべき運用業務をしていない、運用に必要な情報を管理していないから状況が分からない、といった具合です。ネットワーク構成図がない中小企業など、ざらにあります。
IT専任の担当者がいる中小企業はまだ恵まれていますが、そういう担当者がいたとしても、その人の経験が偏っていることが多分にあります。自分がよくわかっていないことを、他人に教えられるはずがありません。当然、社内に流通するIT知識も偏ることになります。
そうした環境でどれだけ実務経験を積んだところで、どんな会社に行っても通用するような汎用的な学び、さらにはスキルレベルの高い学び、は期待できないのです。
情報処理技術者試験は、基本・応用・高度の大区分のもとで構成され、高度資格は専門タイプごとに試験が用意されていますが、それぞれの試験に対して知識体系が整理され、その知識体系に対する理解度を問う試験になっています。各資格を取得するための勉強を通して、その知識体系に沿ったスキルを学ぶことになるのです。
体系化された知識を勉強することで、実務をしているだけでは得難い知識領域まで漏れなく効率的に触れることができるのが、情報処理技術者の資格に向けて勉強することの利点です。これは、国家試験への合格で箔がつくことよりも重要なことだと、わたしは思います。
「そうした勉強を通して得た知識を会社のIT活用にフィードバックしてもらうようにしてください」と申し上げて、わたしはお勧めをしています。
前記のとおり、情報処理技術者試験では、高度なスキルだけでなく、どの社会人でも知っているべき基礎的なIT知識を問う試験も用意されています。多くの社員に向けて、会社として資格取得を奨励すると理想的です。受験費用の補助や、関連する研修の受講費用の補助、合格時の報奨金支給など、できる限りのサポートをしてスキル向上の取組みにしてほしいと思います。
なんであれば、まず経営者のあなたが、トライするのもよいのではないでしょうか?ものすごい知恵の底上げになるはずです。