ITにおいてユーザー企業が「先進的」であることには、ほとんど意味がありません。
ITというトピックになると、とかく先進性に価値があるという方向で理解されるような向きもあるようです。しかし、ITに先進的であることは、ユーザー企業にとっての目的にはほとんどなりえません。
ビジネスの成長や発展に役立つこと、顧客の支持を得ること、こうしたことに役立つことしか、企業においてIT採用の目的にはならないと思います。
こんなことは言ってしまえば当たり前なのですが、しかし現実には、そうでない動機付けでITの取り組みを考えている(ようにしか見えない)責任者やリーダーが、案外目立ちます。
先進的な取り組みをしていると、人より先を行っているように感じられて得意げになるのかもしれません。マスコミが取材しに来て褒めたたえられてうれしくなるのかもしれません。先進的な取り組みであるとして表彰されたりすれば、誇らしくなるのかもしれません。
しかしながら、中長期的に見て、そうしたことで事業として得られるものは、たいてい大したことありません。
世間に知れることでエンジニアの入社志望が増えるのはメリットかもしれませんが、同時にベンダーからの売り込みは急増するだろうと思います。「あの会社はカネを使う」と思われるからです。先進的であるということで名が知れてしまった以上、投資の手を緩めるわけにもいかなくなるでしょう。そんなふうにして投資ありきの投資を繰り返しても、事業に対するリターンを毎度創出できるはずもありません。
しばらくは、経営者がよくわかっていないことをいいことに、適当なメリットをこじつけて稟議を通せるかもしれませんが、経営者が気付いたときには、実は無用だった投資の積み重ねが大いなる不良資産に化けているかもしれません。
過去の事例を振り返れば、マスコミに取り上げられてえらく著名になった人物によって導入された情報システムや組織体制が、その人物が転職したり社長が交代したりした途端に、ほとんど否定されて違う取り組みが推進されるという、残念な顛末のケースばかり目立つように思います。
本当の意味でITをうまく活用できている企業というのは、それを手掛けたとされる特定の個人が有名になることはおよそ少ないものです。むしろ、その会社のシステムそのものが有名になります。そしてそれが脈々と引き継がれ、進化していきます。
世間に知られるようになったから、表彰されたから、などという理由で、得意満面にならないことです。そのITが自社のビジネスの役に立っているのか。顧客がそのITによってもっと買ってくれるようになったのか。経営者は、そういうことを冷静かつ多面的に評価すべきだと思います。当然、そうした評価ができるだけの知識も必要です。