近年は、アプリケーションを内製開発する企業がずいぶん増えてきたように感じています。
背景には、ノーコード/ローコード開発ツールのようなプログラミングを簡易化するソリューションの充実、SaaSやPaaSの機能充実化などがあります。コードが書けなくても、専門知識があまりなくても、パーツを組み合わせるような形で処理を組み、データの器を用意することで、簡易で単純なものであれば、動くアプリケーションが短時間のうちに完成してしまうようになっています。
アプリケーション開発の敷居が下がったことで、モノによっては、現場の業務部門の人でも欲しいアプリケーションを自作できるような状況になっています。そうであるなら、外部のベンダーに頼んで何カ月もかかるよりもはるかにメリットがあるということで、ソフトウェアを内製する企業が増えているわけです。
かつてEUC(End User Computing)という概念が流行しました。そのときと同じような雰囲気があります。EUCはその後廃れましたが、なぜ衰退したかというと、各所であまりにも好き勝手にプログラムが作られて、会社としてそれらの管理が行き届かなくなり、作ったものを誰もメンテナンスできなくなった、ということが要因のひとつでした。エクセルのマクロにも、同じような話があることは有名です。
今回の内製化の動きでも、同じような事態に陥る企業はおそらくあるでしょう。ただし、過去の反省を踏まえて、制作したアプリをうまく管理する仕組みを導入したり、またはそれを意識したガバナンス体制を敷くなど、工夫する企業も多くあります。
さらには、アプリと共に使えるセンサーやモジュール、はてはロボットまでも、割と手軽に手が届く状況も生まれています。価格も比較的低下し、またインタフェースが標準化されてきたことで、アプリとの連携も随分しやすくなりました。一昔前までは大企業がおカネを相当かけてやっていたようなことが、それこそ個人レベルでも実行可能な状況なのです。
うまく内製してアプリを使いこなしている企業を見ていると、そうして自在に開発すること自体が、対応力・スピード・柔軟性などといった競争力に直結するようになってきていると感じます。こうした状況が定着すれば、そのうちに、どんな着想を得られるかというアイデアの勝負になっていくかもしれません。または、どのベンダーのプラットフォームを選んで開発しているか、という点で差がつくような事態も、生まれるかもしれません。
ただし、当然ながらうまい話ばかりとは言えません。ノンプログラミングで開発できるようなツールは、複雑で高度な処理の構築はあまり得意とはしていません。部署内の単純作業のような、小さく閉じる領域なら向いている傾向なのが現状です。また、ツールによって得意分野が異なる傾向もあり、選定のしかたも重要になります。
目利き力は要求されるものの、試すだけなのであれば、資金的なハードルもかなり低くなっています。できる人がいないと嘆くより早く、どんどんやってみることができる企業のほうが先に進む。そんな時代になっていることを、経営者の方々には十分認識していただきたいと思います。