身体を鍛えることが好きな経営者は多いようです。泳ぐ、走る、筋トレする。なかには、自宅の地下室に自分専用のジムを構えて、夜な夜な鍛えている方も見かけます。
筋トレに詳しい人に言わせれば、筋肉はおよそ、ペアで対になって連動しており、鍛えるなら両方鍛えなければよろしくないのだとか。例えば、二の腕は上腕二頭筋(いわゆる力こぶ)と上腕三頭筋(力こぶの裏側)がペアになっており、片方が収縮するときもう片方は伸長する。鍛えるなら両方やらないと、バランスが悪い。
身体の表側(おなか)と裏側(背中)も同様だそうです。鍛え上げられた肉体というとすぐに思い浮かぶのは、立派な大胸筋と割れた腹筋ではないでしょうか。目立つからといってそこばかり鍛えているのではまずいのだそうです。ある専門家がこんなことを言っていました。背中が曲がったままのお年寄りがいるが、なぜそうなるのか。
赤ちゃんの時はみんなハイハイをするように、人間の体は、背中の筋肉がないと四つん這いになってしまうようにできている。大人で背中の筋肉が弱ると、おなか側の筋肉によって前に曲がる力が働き続ける状態になる。そこに、老化による脊椎骨の骨粗しょうが加わると、ドーナツ形のパーツがブロックのように積み重なって形成されている脊椎骨が、少しずつつぶれてくる。やがて、脊柱そのものが曲がるように変形して定着する。そうなると、もう筋肉の力では戻せないのだそうです。
この、筋肉の裏表の関係の話を聞いて、わたしは「企業のビジネスシステムも同じだな」と考えました。
DXがバズワード化し、もはやDXを知らない経営者はいない状況の中、いまではITに強くなろうと熱心な経営者も増えてきているようです。なかには、米国や中国の展示会やカンファレンスに自ら出掛けていって見聞を深め、コネクションを得てこようとする方もいると聞きます(もちろんコロナ禍前の行動です)。
そのようにして自ら積極的に情報収集し、知見を拡げるのは重要です。ただしその時、アプリ、AI、クラウド、ロボット、ドローン、RPA、VR、AR、アジャイル、○○テック、そのような「流行りもの」ばかりが、気になってはいないでしょうか。
腹筋、ならぬ見目麗しの流行りのITにばかり目が行って、それこそがIT戦略だと考えるなら、それは違うと思います。
企業のビジネスシステムの背筋とは何か。わたしは「データ」であると考えます。
データ基盤の整備は、素人目には利益に直結するように見えず、その取り組みは地味で面白みがないうえ、とても面倒であることが多いものです。社歴が長く、その間にデータ構造に一切手を入れなかった企業ほど、データ基盤を整えようとすればいろんな意味で相当に苦労します。やりたくない、が本音でしょう。
しかし、どれほど「(見た感じ)先進的なIT」を導入しようとも、データが整っていない企業の取り組みはいつか必ずつまずいて、大きな困難に直面します。
ある企業の話を先日聞きました。その企業はベンダー出身の人物をIT責任者に採用し、その責任者の考えた通りに、モバイルアプリやアジャイル開発等々、「(見た感じ)先進的なIT」をどんどん取り入れているといいます。その結果、便利なアプリをいくつか開発し、顧客にも好評で、業務の効率も向上したそうです。ところが一方で、それらのアプリが参照する大本になっているデータは、その企業が昔から管理に使っているExcelファイルのままだといいます。
それは「ファイル」なのであって、「データベース」ではありません。いわば、背筋が弱いまま腹筋だけ鍛えているのが、この会社の実態と言えます。背筋が弱い会社はどうなるか。将来は、背中が曲がったお年寄りのような身動きに陥る会社になる、ということです。
この企業は近い将来、データで困ることになるだろうと、わたしは予想しています。実は、こんな感じの予想はかれこれ10年来のひそかな楽しみで、正答率もなかなかです。今回も当たるかどうかは、個人的な楽しみにしたいと思っています。