新型コロナウイルスによる影響が広がり、収まる気配がまだありません。先が見えない中で、社会全体が活動を縮小する流れになっています。
各企業は、当面この事態が続く、またはさらに悪くなることを念頭に、事業活動を考えていかなければならない状況でしょう。ひとまずは目先のことに考えが行ってしまうのは避けられないかもしれませんが、ここで考えたいのが「事業継続計画(BCP)」のことです。
BCPは、天変地異など不測の事態が発生した場合に、事業をどのような体制にシフトして継続を図るかをまとめた計画です。東日本大震災の直後には相当にクローズアップされましたし、昨年までに頻発した水害の際にも注目されました。災害のたびにBCPの重要性が問われています。
少なくとも日本企業の間では、BCPというと、地震や台風への備えというイメージで捉えている向きが多いのではないかと、個人的には感じています。しかしながら、BCPの想定には元から、パンデミックも含まれています。直近のパンデミックとして思い出されるSARSの蔓延の際は、日本国内では今回ほどの大騒ぎにまではならなかったと記憶していますが、そのせいもあるのか、多くの人々にはあまり実感が持てないケースだったかもしれません。
実は今回の騒動が発生するより前に、関係するある場でBCPが話題になったことがありました。その際にわたしがパンデミックのことを指摘すると、実感がわかない様子でポカンとしている関係者が多かったのを思い出します。なかには「ひねくれた指摘を」と思った人もいたかもしれません。
パンデミックが他の災害と異なることのひとつは、局所性が小さい、つまり場所を問わないという特性でしょう。地震や台風は、直接の被害地域とそうでない地域に分かれますが、パンデミックではそれがほとんど期待できません。つまり、東と西で「冗長」を取っていれば対策できるというものではありません。すべての人が万遍なく影響を受けてしまいます。そのことは、今回の経験を通して多くの人々の記憶に残るでしょう。
BCPを考慮するうえで大事になることは、「問答無用ですべて止まるとしたとき、どうするか」を考えることだと言われます。今回、人の動き、モノの動き、関係各所の動き、経済の動き、あらゆる事業活動の動きがそれこそ問答無用で縮小しました。一方では、それによる新たなニーズも発生しました。そうした経験を通して、改めて自社のBCPを考え直し、明確な計画がないのなら検討し、自社のビジネスシステムのあり方を問い直してはいかがでしょうか。
ところで、世間では今回の騒動をきっかけにテレワークが話題になっていますが、「BCP=テレワーク」では必ずしもありません。この緊急事態下においては選択の余地はほぼないのは間違いありません。ただし、ソリューションありきの考え方は、平時・有事に関わらず、いかなる状況でもやめるべきです。社内に混乱を招きます。先に考えるべきなのは、自社のビジネスシステムのあり方でしょう。
テレワークに関して言えば、本来なら技術の導入と同時に、勤務体系や現場での仕事の管理、メンバー間での情報のやり取りや責任者の承認、勤務評価の仕方、発生する費用の負担の考え方など、多くの面で業務の仕組みを大幅に見直す必要が出てきます。従業員の負担やパフォーマンスも、在宅時の環境によっては大きく変わります。
オフィス勤務では想定しないような仕組みに組み立てなおして、自社のビジネスシステムがより機能性や柔軟性、成果創出能力などが向上するということなのか。そうした判断をするというのが、テレワークを考えるうえでの本来の筋だと考えます。今回、問題なくテレワークに移行できている企業は、平時からその準備ができていた企業です。
もちろん、有事であっても仕事を止めないためにテレワークが必要だ、という判断はあり得ます。そうであるなら、上記のように業務の仕組みをテレワークが馴染む形で的確に組みなおし、平時から常に運用するという覚悟を含めて判断すべきところです。
今回得られている教訓、またこれまでの自然災害から得られた教訓を振り返りながら、目先だけでなくあるべき姿も含めて、自社のビジネスの仕組みを考え直す契機にされることをお勧めしたいと思います。安心したいなら、他社より早く自らで考え備えることで勝ち取ってください。