最近、製造業の企業が事業をサービスやソリューションの提供にシフトしているとして、話題に上ることが多くなっています。
例えば、トヨタ自動車は先日、「自動車を作る会社から、“モビリティカンパニー”にモデルチェンジをする」と、社長自ら宣言しました。また、今月開催される国内最大の家電・IT見本市「CEATECジャパン」では、コマツやファナックといった”機械メーカーの雄”ともいえる企業が、「製品」ではなく、自らが仕掛ける「サービス」について基調講演するということで、話題になっています。
この背景には、あらゆるものが「つながる」ようになっているという傾向、そして、つなげる部分を担うプレーヤーが業界を制する立場になりやすいという実情があると思います。モノづくりに高度な技術は相変わらず必要であるものの、モノを作っているだけでは価値提供として足りない時代になってきたということでしょう。
実は、トヨタ自動車がこのような「宣言」をしたというのは、個人的には内心ほくそ笑んでいるところがあります。わたしは2012年1月の当コラムで、同社を話題にして、『自動車会社は今後自動車を「端末」として扱い、ケータイなどの「端末」と同列化しながら、それらをつないでサービスを展開する「プラットフォーム事業者」を目指したらどうか』と書き記していました。まさに、趣旨を同じくするような「宣言」をしたわけです。
ここしばらくの間は、多くの企業で「サービス化」の動きが加速していくだろうと見込まれます。ただ同時に、おそらく相当の企業がまず壁にあたるのではないかとも思っています。
サービスを作るには、顧客にそのサービスを「どうやって見せるか」という観点が重要であると、わたしは考えます。例えば、同じ飲食店をやるにしても、店をどう見せるか次第で、顧客に映る魅力がまったく変わってしまい、差がついてしまうということです。
このように言うと、ブランドプロデュースのようなことを想像されてしまうかもしれませんが、そうではありません。「どうやって見せるか」とは、顧客にサービスをどうやって使ってもらうのかであり、どう利用してもらえれば顧客が喜ぶかということです。ブランド価値があるのかどうか以前に、それはサービスを提供する企業自身が、こだわりを持って作り込むことです。
サービス提供に失敗する企業は往々にして、この部分をうまく作り込めていないか、そもそもよく考えていない傾向があるように感じています。結果として、魅力を感じない「フツウ」のサービスに顧客には映り、積極的に選ばれないわけです。
見せかたをよく考えなくても、ブランドやブームを前面に出してマーケティングすれば、それでもビジネス的に成功はするでしょう。しかし、だいたいの場合それは一時的です。そのうち中身の本質を顧客に見抜かれるようになり、飽きられて「フツウ」になっていきます。大事なのは、華々しくマスコミに取り上げられることよりも、永く顧客に支持されることではないでしょうか。
特に技術を活用したサービスの場合、こうしたことを真剣にデザインしていないと、単なる技術のつなぎ合わせのようなサービスになります。そういうものはすぐに真似ができ、すぐにそれを超えるサービスを出されてしまいがちです。
技術競争は、価格競争に似て、リソースの消耗戦になっていきます。資金や人材が潤沢な大手企業には決して勝てません。また大手企業にとっても、そうした競争の先に「イノベーションのジレンマ」が待ち受けているということは、すでに過去の歴史が証明しています。
もしサービス提供を本格的に考えるのなら、流行に駆られて先走る前に、まずはしっかり「どうやって見せるのか」を考えることをお勧めしたいと思います。デジタルなどは、その仕組みやロジックを考えた後の話です。