ベンダーへの要求でわかる、CIOのマインドセット

みなさんは、「ITベンダーにはこうあってほしい」ということに関して、自社のCIOが以下のように発言していたら、どのように感じるでしょうか。頼もしい人材がもっともなことを述べていると思われるでしょうか。

  • 我々がどこで苦労するかを先回りして知り、我々より先に課題を引き出す提案をしろ
  • 我々の業務の困りごとを解決するために一緒に考えろ
  • 経営視点での価値があるかどうかは、まずベンダーが説明しろ

このような趣旨で、世の中で著名とされる複数の企業のCIOが実際に発言をされているのを、何度も聞いたことがあります。

少ないながらもわたしが支援をした企業においては、このような発言が出ることはほぼありえません。

「我々の苦労を先回りして知ってほしい」という願望は、要するに顧客を理解する努力をしろということでしょう。業者がユーザー側を理解する努力をすることは、もちろん欠かせません。ただし、だからといってユーザー側が自分たちのことを伝える努力が不要になるわけではありません。

業者側がどれだけ努力したとしても、彼らは所詮外部の人間です。顧客の実情を部分的に理解するにすぎません。苦労している点や困りごとを包括的に把握し、それを整理することは、ユーザーにしかできない事柄です。

また、業務上の困りごとの解決手法を考えてほしいときに、ITベンダーに相談しているとすれば、相手を間違えています。相談すべきは、業務プロセスの専門家や業務改善のエキスパートでしょう。

ITベンダーは本来、技術の専門知識を磨く技術エキスパートという立場であるはずです。ITベンダーも最近では、顧客が上記のように要望することから様々な上流機能を兼ね備えようとしているようですが、わたしの知る限り、そうやって手を広げた領域において本当に実力が伴っている業者はほとんどありません。

でも、それでよいと思います。ITベンダーはそもそも、よろず相談が役割なのではありません。

ITソリューションに関する顧客側の経営価値をITベンダーが説明しろなどという考えは、わたしには理解できません。経営上の損得が最も分かっているのは、その会社の人間です。ソリューションが提供する商品価値をITベンダーが説明することはあるでしょう。しかしそれを採用するにあたって、それが自社のビジネスにもたらす価値を説明したり、価値創出のシナリオを描いたりするのは、外部の人間がやることではありません。

ところが現実では、ITベンダーが持ってきた提案書をそのまま経営会議用の資料に張り付けて説明する人が少なくないのが、残念ながら実態のようです。それどころか最近では、例えばクラウドの採用に向けて経営を説得するための説明の仕方を指南するセミナー(しかも経営向け説明資料のテンプレート付き)まで開催されているのですから驚きます。

おそらく、冒頭のような発言をするCIOには、ビジネスと情報システムの間に「業務のしくみ」というレイヤがある、という認識が希薄なのではないでしょうか。業務のしくみとは、その企業が経営上のミッションを達成する手法をプロセス・情報・組織などのかたちで具体化した総合体であり、自らで考え抜いて編み出すものです。そこで問題が出たとしたら、それを解決するのはほかならぬその企業の人間です。

そういう考えのもとにおいては、自分たちがやりたいことや問題の解決策が先にあり、それができるかできないかを外部の業者に相談するマインドセットになります。「ITベンダーはウチをよく理解して、いい提案を持ってこい」という発想は、ありえません。

どちらの考え方のほうが、自社の戦略に沿い、よりパフォーマンスと満足度の高いシステムを実現できるのか。そのご判断は経営者のみなさんに委ねます。