「攻めのIT投資」は、カンタンに認定できない

経済産業省と東京証券取引所は、2015年5月に「攻めのIT経営銘柄」を選定すると発表しました。情報システムやデータを駆使して好業績を上げている企業を業種業態別に選定し、経営陣や株主の関心を呼ぶことで、「攻めのIT投資」を企業に促す狙いです。

この取り組みを企画した経産省の担当者は、「株価を左右する可能性のある指標をつくれば、社長の関心度は高まる」と述べています。

なんとか日本の経営層にITの重要性を認知させたい、行動させたい、という思いが伝わってくる取り組みです。ぜひ、よい影響を日本の企業に及ぼしてほしいものだと期待したいのですが、記事を読んでいる限りのしくみで本当に適切な選定ができるのかどうか、心配になります。

当社では職業柄、お客さまに初めて関わる段階で必ず内部調査を行います。状況によってはお客さま自身が現状のレベルを把握したいとご希望になることもあり、組織行動の詳細まで網羅した調査を行うために診断パッケージも用意しています。その立案・設計をした経験から申し上げて、「攻めのIT投資」を的確に判断するのは間違いなく単純なことではないと断言できます。

記事によれば、選定対象はアンケート調査を基とするとされています。IT利活用の取り組みをさまざまな角度から質問するとのことですが、わたしの経験で申し上げれば、その回答と実態はかなり異なることが多いです。「やっていると言っているが実はやれてない」「やれてないと言っているが実は結構やれている」どちらもあります。これが、アンケート調査の限界です。

また、財務状況を加味するとされていますが、財務指標に反映される要因は必ずしもIT投資によるものではない点が厄介です。財務の領域だけを見ていると確実に判断を誤ります。極端な話をすれば、「IT投資はたいへん頑張ったのに、できたシステムはいまいちで、社員が人力でパフォーマンスを巻き返した結果、業績が上がった」というケースは、財務状況とIT投資状況だけを見ていると「攻めのIT投資」として高評価されることになります。

そもそもIT投資というのは、投資額が大きければ「攻めている」ことになるわけではありません。本来称賛されるべきなのは、最小限の投資でパフォーマンス向上を目論見どおりかそれ以上に果たし、成果を挙げるケースのはずです。高評価に値するIT投資の根源となるポイントは、「成果のありかたを自らデザインし、成果を自ら出しに行って、それに成功しているかどうか」だとわたしは考えます。これは、システム設計のみならず、組織体制、人材育成、インフラ整備、セキュリティ管理、すべてを通じて言えることです。

実際に自らビジネスのしくみをデザインし、そこに組み込む適切な情報システムを企画して、主体的に開発導入し、うまく運用して、結果としてパフォーマンスが向上したというストーリーを的確に見極めようとしたら、実際に現場をあたらなければ客観的には判断できないのが実態なのです。当社の診断パッケージでは、もちろんアンケート調査も行いますが、かならず現場に入って観察し、関係者から直接話をうかがい、あわせて物証を集めることも行ったうえで、診断を行っています。

経産省が想定する具体的な調査分析手法はくわしく存じませんが、「真に攻めている」企業を、うまく民間のパワーも使いながら的確に選定していただきたいものです。信頼できるホンモノの指標づくりを期待します。

また経営者の方々には、このような客観評価を、「ビジネスのパフォーマンス向上のための純粋な機会」としてとらえていただきたいと願っています。「IT活用を積極的に行うのは重要だ、なぜならウチの株価に影響するから」と言う社長は、見たくありません。