最近、農業へのIT活用が草の根的に広がっている事例を取り上げたニュースを、よく見かけるようになりました。
センサーネットワークを構築して運用したり、小型ロボットを活用して作業を効率化したり、天気予測データを取り込んだ作業適正化の仕組みをつくったりなど、興味深い取り組みが多く見られます。
特筆すべきは、こうした工夫を農家の方々が自身で行い、さらには機器を調達するなどしたうえで、自作をして取り組んでいる例があることです。そしてそれを、互助会やコンソーシアムといったグループを組みながら運営を推進しているとのこと。まさに user-driven な発想であり、自らであるべき姿を構想してデザインし、それにフィットした仕組みや情報システムを実装していくという、成功率が高まる取り組みのしかたです。
この分野では、大手ベンダーが農業ITソリューションをサービス化してクラウド展開する試みが、盛んに進められてきました。これはもちろん、農家をサービスで囲い込むのが最終的な目標なわけですが、ぜひそれに負けない強いシステムを実現していただいて、クラウドを使うよりも独自性のある、より良い成果を挙げていただきたいと思います。
ただし、注意が必要だと感じるのは、こうした user-driven な発想で自ら構築したシステムを、対外的に販売しようとする動きです。
互助会またはコンソーシアムとして運営するにあたり「運営費」もしくは「会費」を取るというのなら、特に問題には感じません。一方、これが「販売」ということになると、位置づけはかなり変わります。
つまり、その農家の団体は、自分のサービスを売り出したその瞬間に「ベンダー」になるわけです。
ベンダーであるということはつまり、サービスを購入してくれた農家は「顧客」ということになり、システム品質に小さくない責任を負うことになります。片手間ではなくきちんと顧客専用窓口を設けて、問い合わせに対するサポートをする必要が出てきます。その顧客がサービスに依存すればするほど、システムを止めた場合に大きな損害を「顧客」に及ぼすことになります。当然、システムが止まらない保証はどこにもありません。顧客が増えてきた場合、その対応にどのくらいの人員を割けるでしょうか。
システムを止めることがなかったとしても、例えばシステム変更や更新を実施したくなった場合でも、「顧客」への説明や措置が必要になります。互助会であれば、会員のみなさんに集まってもらって方針決定、といった程度で十分ですが、「顧客」となれば安易にはいきません。
そうしたことを、本業である農業に加えて、責任をもって実行する覚悟が、「販売」には必要なのです。
しかも、この分野の技術発展は、しばらくは相当なスピードで進むだろうと思われます。一度システムを構築しただけで安心していると、数年後には技術的に陳腐化している可能性が高いわけです。「ベンダー」ならば、顧客によりよいサービスを提供すべく、それをキャッチアップし続けることも要求されます。
うまく構築できて、マスコミに取材してもらった程度で満足せず、じっくりと農業ITの運営ノウハウ改善を進め、よい技術は積極的に取り込みながら、自らの仕組みの最適化に注力するのが得策でしょう。システム運営とサービス提供のレベルの違いを、甘く見てはいけません。