イノベーションのヒントになりそうな、2つのサービスの仕組み

今回は、最近見つけた2つの興味深いプラットフォーム・サービスのモデルをご紹介しながら、ビジネスに資する仕組みの発想を巡らせてみたいと思います。システム企画のヒントになれば幸いです。

まずは、NikeのFuelBandのお話から。

ご存知の方も多いかと思いますが、最近健康や栄養に関連するライフログをベースにしたサービスや商品が次々登場してきています。NikeのFuelBandもそのひとつ。腕に装着するリストバンドになっており、常時身に着けていることで日常生活や運動による消費カロリーや歩数などを記録してくれるというシステムです。日々の運動の記録や推移をチャートで確認することもできるので、エクササイズを続けるモチベーションにもつながり、人気商品になっています。

この商品の仕組みも興味深いところですが、もうひとつ興味深いところがあります。それは、FuelBandが取得するデータを活用した連携アプリを、一般の開発者が開発できるようにしている点です。

例えば、FuelBandが取得する運動データを利用して、個人の目標に合わせた日々のトレーニングの提案をするアプリや、バランスの良い肉体を維持する食事のメニューを提案するアプリの可能性が考えられます。つまり、FuelBandを単なる商品としての枠に留めず、サービスプラットフォーム化を目指しているというわけです。

これは、顧客データを持っている、もしくは顧客データが取得できることを強みにしたサービス基盤の発想という点で、ひとつのヒントになる事例ではないかと思います。ビジネスにおけるプラットフォーム・モデルは Google や Apple の事例ですでに著名ですが、彼らは圧倒的人気のサービスまたは商品をもとにプラットフォーム化を狙いました。一方、FuelBandの例のようにデータそのものをプラットフォームの基盤にしようとする例は、まだそれほど多く世の中に出てきていないのではないでしょうか。

ただしこのモデルを成功させるには、そもそもその商品が爆発的に売れて、顧客がデータをどんどん提供してくれなければ成立しません。新たに仕掛けるなら、それが大きなハードルになります。大手企業であればまだ可能性がありますが、中堅以下ですと簡単にヒットを飛ばせるものではないかもしれません。

そこで、もうひとつヒントになる事例を。IFTTTというものです。

IFTTTとは、”If this, then that.”の略なのだそうです。その実態はWebサービスであり、モーションセンサーなどを搭載したハード、またはアプリを、IFTTTのサービスに接続して連携することで、さまざまなオートメーションが実現する、というものです。

例えば、朝ベッドから起きると自動的に部屋の照明が点灯する。外からショートメッセージを送るとエアコンが作動する。机の蛍光灯の電気をつけると、隣にあるパソコンが自動的に作動する。そんな「AならばB」のような連携を登録しておけるというサービスなのです。

こうしたサービスは、これまでの常識では、家電メーカーのブランドを統一しないと無理そうなイメージがありました。IFTTTはその常識を打ち破って、家電のネット化が簡単にできてしまう可能性を秘めていると言えるでしょう。

その点も興味深いのですが、プラットフォームの仕組みの面でも、学べる点があると思います。

IFTTTとFuelBandは、生活環境を便利にするツールという観点では方向性が似ていますが、FuelBandは自らの強みを活用するプラットフォームである一方、IFTTTは単に「つなぐ」ことに徹したプラットフォームになっています。自ら何らかの商品を持つことなく、単に世の中の不特定多数なものをつなごうとしているだけです。

IFTTTのプラットフォーム・モデルでも、多くの人にインタフェースを揃えてもらい、使ってもらわなければ発展しないのは同様です。しかし、事前に圧倒的な強みを所有している必要はないわけです。こうしたモデルであれば、大手でなくてもチャンスがあるかもしれません。

世の中、いろんなところに発想のタネが隠れています。コンスタントな情報収集が大事であることを折に触れて申し上げているのは、そうした理由からです。企業であれば、それを社内の個人に頼るよりも、組織的に行う方がより確実で効果的です。