日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が、「企業IT動向調査2013」を発表しました。これは、同協会の会員企業を中心にユーザー企業のIT動向を調査したものです。
結果の全容を知るにはレポートを購入しなければならないのですが、一部の主要な結果については同協会のホームページで閲覧することができます。中堅企業以上の、ITに関しては比較的積極的な企業が調査対象の主体になっていますが、どのような規模のシステムユーザー企業にとっても参考になる結果です。一度ご覧になることをお薦めします。
わたしが見たうちで興味深い結果のひとつは、ユーザー企業のクラウドに対する見かたです。
クラウドの導入状況を聞いた結果によれば、基幹系をクラウド化した割合は調査企業のうちの 2~3%、情報系はメールシステムを中心に 20%程度になっています。基幹系と情報系の採用割合の差が顕著です。
情報系システムのクラウド化は、特に人材の乏しい中堅以下の企業には向いています。調査結果においても、売上高が 100億未満の中堅中小企業では比較的割合が高くなっているようです。
一方、IaaS および PaaS の導入に関しては、確かに導入は増加しているものの、調査が行われた 2012年時点では導入企業がいずれのサービスも 1割程度。ひとまず検討くらいは行う企業の割合は 4割強で、すでに頭打ちになっていることがうかがえます。
つまり、全般的にユーザー企業はクラウドを非常に冷静にとらえて判断していると見えます。マスコミやベンダーのなかには、「クラウドファースト」であるとか「これからのシステムはクラウドが当然」のような、“クラウド万歳”な論調を採り、これでもかというほどにクラウドを採用した企業を取り上げるケース(よく見ると、だいたいはメールやグループウェアの類を使っているのですが)もしばしば見受けられますが、当のユーザー側は、全般的にはそれに流されていないようです。
ただし、一般的な傾向がそうだからといって自社も同じ歩調を取ればよい、ということでは、もちろんありません。
こうした企業調査に対しておよそ言えることですが、これはあくまで「トレンド」を示しているだけのことであり、実際に採用する方針は、その企業の経営環境や今後の方向性によって、個別に判断すべきことです。極論すれば、クラウドをベースにしたシステムを考えたほうがよい企業ならば、仮に他の 99%の企業がその傾向でなくても、クラウドを採用すべきなのです。
むしろ、他が採用していない中で自社がいち早く採用すればチャンス、かもしれません。このあたりは、自社が置かれた環境に対する読みと論理的な状況判断、つまり「目利き」が要求されます。
このとき、正確な読みや判断をしていくためには、正しい情報を把握することがまず必要です。その意味で、わたしがよく申し上げることですが、「小さく試す」ことが重要になります。
「試す」ことを面倒がってやらないユーザー企業が大多数なのが現状ですが、どこかの大企業にならって「ビッグバン導入」などすれば、大金をはたいたうえに失敗する可能性は高くなります。ちょっと「試す」だけで、かなりの情報を獲得でき、目利き力が上がるのですから、やらない手などあるでしょうか?自分たちが納得のいくシステムを使いたいと思っている企業なら、どこでもやっていることです。要は、その習慣があるかどうかの問題です。
そんなことを考えると、先ほどの調査結果に対してうがった見方をすることもできます。
どういうことかといえば、データとして「流されていないユーザー」に見える中には、単に食わず嫌いで「試す」ことなど考えてもいないユーザーも、含まれているのかもしれないということです。結果を疑いなく、額面通りに受け止めてはいけない、こうした調査を見るうえでのひとつの側面です。
そういうユーザー企業の後を追わないほうがよいのは、言うまでもありません。