わたしはお店の観察が結構好きです。スーパー、コンビニ、ドラッグストアなどは、入るとくまなく見て歩いて、商品や価格をよく観察しています。商品価格の物覚えと相場感覚は、おそらく日常的に家族のものを買い物する女性の方々に負けていないと自負しています。
あまり関心のない方は気にならないかもしれませんが、店の商品棚には、その店またはその企業の個性やこだわりが色濃く表れていると思います。生鮮品を見れば店によって鮮度が違う、加工品を見れば同じメーカーの同じ商品でも店が違うと扱いが違う、総菜に並ぶ品物の中身やサイズを見ればその店が何を気にして(または気にしないで)売ろうとしているかが違う、違う曜日に行って比較すればその店の販売政策を想像できる、等々。回る店が多いほど、おもしろいなあと思って、たいして買わないのについつい長居してしまいます。
最近、毎日低価格(EDLP)をウリにしていたスーパーが、人知れずその方針をやめて行っていることを直感しています。会社に確かめたわけではないので事実かどうかはわかりません。ただ、消費者目線で見れば、小さいけれど様々な状況証拠からして、明らかに方向性が変わりました。ひとことで言えば、「もう安くはない」のです。
それを感じているのはウォッチャー気取りのわたしだけ、と言いたいところですが、実は違います。おそらくほぼ間違いなく、その店に入店している客の数も以前に比べて減っています。
一方で、その近隣にある別のスーパーのほうは、客足が明らかに増加しています。わたしの足もまた、気づけばその店のほうにより多く向くようになっていました。
その店は以前から、安売りの店ではありません。ただ、品目を絞って毎日異なる商品を割引して販売するポリシーで、以前からそれは変わっていません。割引後の価格を見ていると、近隣商圏の小売店(数は比較的多いほうです)の中でも最低価格を付けている品目も、実際に多くあります。ただそれは、「これだけ値上がりした今となっては」ということで、この店が割引に力を入れるようになったから、ではありません。
おそらく大多数の近隣住民は、いまとなっては後者の店のほうがオトクであると判断して、そちらに足が向くようになったのだろうと思います。やはり、敏感に反応しているのです。
後者の店は、「ポリシーを変えない」ということに多くの労力を割いているのだと、わたしは感じています。世間のメーカーや生産者がこれだけ値上げラッシュを繰り返す中で、そこだけは店として変えない、それが顧客への提供価値である、という一貫したこだわりを感じます。
一方で前者の店は、世間が値上げしているので自社も(実質)値上げする、という方向に「甘んじた」のだと思います。
本来値上げという行為は、値上げする分の付加価値を伴って行うものです。従来より高い価格を支払ってでも得たい付加価値が伴うなら、顧客は納得して支払います。顧客に納得感を与える付加価値の実現には、当然に企業努力が必要です。しかし、ここ最近の値上げのほとんどは単に、原価やコストが増えたから負担してください、というものでしかありません。
そういう風潮を受けて、顧客はどうしているかと言えば、社会の雰囲気から仕方がないと思って黙認しているようでいて、多くは少しでも安く売っている場所を模索して選別しようとしているのです。結果として、企業は売上は確保しているかもしれませんが、来店頻度や商品点数ベースでみると前年を下回っているところが多いはずです。
買う側の顧客は、企業がいま実行している値上げにはなんの付加価値もないことを、言葉にはしないところで感じているのです。
いまの世間の雰囲気に甘んじている企業は、近い将来、低価格高付加価値の商品を出してくる企業が現れて、雪崩を打ってなすすべなく敗退するだろうと、わたしは考えています。
見方を変えれば、いまのような時期は、価格競争力を強みにするディスラプターが将来に向けて胎動を始める時期なのかもしれません。そのうち市場に衝撃を与えるビジネスモデルを実現して台頭し、一気に市場を席巻するようになれば、思考停止していた既存企業はなすすべがないでしょう。