先月のコラムでは、幹部社員をどう育成していくことができるかについて論じてみましたが、今回はその続きです。
会社のコアになるようなハイレベルの人材については、専門的なスキルを持つ人材を社外から入れたがる経営者もよくいます。
ただ、外部から人材を採用するなら、事業運営の仕組み化までができていることが前提だと思います。仕組みが未熟な状態で外部のハイスキルな人材を採用すれば、わたしの知る限りではおよそ失敗に終わります。
まずそもそもの話として、採用しようとする人材に、組織として要求する専門的スキルが十分にあるのかどうかを見抜く力が経営者や経営幹部にあるのか、という問題があります。その専門性のレベル感や価値が理解できるためには、先月のコラムのとおり、経営者や経営幹部がまずその業務を(自分の会社の範囲内でも)自分で手掛けて、考えてみたことがあるのが不可欠です。
そうでないのなら、その分野における本質的な能力を兼ね備えているのかを見抜く術は、まず持ち合わせていないでしょう。料理をしたことがない人が、料理人の腕や底力を見抜くことができないというのと、同じことです。
また、組織が要求する能力を発揮するということは、実は専門能力があれば十分なのではありません。「専門能力」というのは、その人材の能力を見る切り口のひとつでしかないという事実に気付く必要があります。その人材が職務で発揮する「能力」というのは複雑で、専門能力だけでなく、対人スキル、コミュニケーション能力、問題解決能力など、その他の様々な能力(コンピテンシーとも呼ばれます)の相互作用によって形成されるのが現実です。
ですから、個々の専門性だけを見ていても、それらは断片的なので実は評価しづらいのです。本当のところは、業務の仕組みが確立された職務環境で、実際に仕事をしてもらわなければわかりません。例えば、社交性が高いのに営業はできない人材も実際にいますし、営業成績は抜群だけどあまり協調性がない人材もまた存在します。
同様のことが、職務経歴に関しても言えます。
履歴書を見て、立派な経歴、レベルの高い資格の数々、豊富で幅の広い経験、積み重ねてきたキャリアのすばらしさに目を引かれた経験がある経営者の方も多いだろうと思いますが、仕事をさせてみたらまったくの期待外れだったケースがこれまでなかったでしょうか?何を隠そう、わたしもそれで痛い目に遭ったことが何度かあります。
よくよく考えてみれば、ビジネスパーソンが「経験」や「経歴」を獲得するのは、実はそれほど難易度が高くありません。業務が行われている現場に関与していさえすれば「経験」したことになりますし、成果はどうであったとしても「経歴」と称することはできます。実際、そのようにしている人は多いと見受けられます。
本質的な能力というのは決して簡単に見につくものではありませんが、一方で、職務経歴書の書面で本質的な能力の有無を見抜くことはまず無理です。そのため、職務経験にだけ力点を置いた人選をすれば、なぜか凡庸な人材が集まる結果になるのです。
ある時点で、外部人材を採用して「専門スキルを買う」ことが必要になるときは来るでしょう。ただしそのときは、社内の人材を育てる以上に慎重に評価することが必要ですし、採用前の面談や試験だけで判断しきらないことも意識する必要があります。採用した後でしかわからないことも、かなりあるものです。そこまで念頭に置いた採用プロセスを構築したうえで、外部人材を取り込むことを考えるのが無難です。
良くも悪くも、人材の能力を見抜くというのは、本当に難しいことです。