先日、米OpenAIのアルトマンCEOが電撃的に職を解任され、その4日後に復帰を果たすという出来事がありました。同氏が取締役会によって解任された際、同社の従業員の大半が団結し、CEO解任を取り仕切った現在の取締役が退陣しないなら自分たちが退職すると表明したといいます。その数は従業員の9割とも言われていました。アルトマン氏はよほど優れたリーダーとしてリスペクトされていたのだろうなと、このいきさつを知って感じました。
方や国内では、管理職に昇格するもその役割になじめず挫折するビジネスパーソンが続出しているといいます。先日の日経ビジネスの記事では、その様相を「罰ゲーム」と表現していました。
スタートアップのCEO職と、企業の中間管理職を比べるのでは、違いが大きすぎるのかもしれません。後者は、わたしに言わせれば権限も立ち位置も中途半端で、いわゆる「板挟み」になりやすい立場でしょう。やりたいことを明確に持っていても、周囲に振り回されてしまって思うようにならないこともよくあります。なかなかつらいのは間違いありません。しかし一方の前者はつらくないのかといえば、そうでもありません。CEOは全方位でその能力を評価されてしまうところがあると思います。得意な事だけ突出しているのでは、CEOの能力として足りません。高く評価されることが人間的な魅力につながり、それで人がついてくる、という構図です。魅力のないCEOの会社に、人は集まりません。人が集まらない会社は頓挫していきます。ある意味、中間管理職より厳しい立場です。
違いはありながら、両者に共通して必要なコンピテンシーはいくつかあると、わたしには思えます。そのうちの主要な特性は「リーダーシップ」でしょう。
一般社員から管理職に昇格した人を見ていると、いままで職務上要求されなかったリーダーシップを昇格と同時に要求されるようになることで、勝手がわからず苦しむケースや、少々曲がったリーダーシップを発揮してしまうことでメンバーの反感を買ってしまうケースなど、様々な問題が見受けられます。
一方で、スタートアップや小規模な企業のCEOにも、問題があるケースは見られます。こうした会社が抱える問題のほとんどは、その原因が経営者にあることが多いものです。小規模な企業では、ミッションやビジョンを(意義のあるかたちで)持たないところも珍しくありません。リーダーシップというものについて突き詰めて思索したことがない経営者が多いのではないかと、個人的には感じています。
リーダーシップという特性に、唯一絶対的な解はありません。それぞれ経営者やリーダーにそれぞれのスタイルやポリシーがあってよいと思いますし、現実、名経営者といわれる人たちを見ていても、そのリーダー像は千差万別です。
ただし、わたしが考えるに、名だたるリーダーができている行動には、共通した要素も多くあります。例えば、次のような行動です。
「旗印を掲げること」: そのリーダーなりの見識をもって現況や将来を見極め、目指すべき方向を決め、それをわかりやすく表現する。それをメンバーに示し、それによって人々を前向きに動機づける。
「構想を設計すること」: 自らや会社が持つリソースや手段を活用することで、どのようにして目指すべき方向に向かうか、どのように目標を達成するか、提供したいと考える価値をどのように実現するのか。そのシナリオや全体像を具体的に描く。それを示し、周囲の人々に実際に活動してもらう。
「環境を整えること」: 人間関係、職務環境、業務に必要な道具、外部や他社との連係や交流、情報の流通、行動に対する評価の仕組みなど、メンバーが任務を遂行する上で必要になる環境と雰囲気を整える。整備した環境によって、個々のメンバーの能力が相互の掛け算で発揮されるように促す。
このようなことを実践したうえで、日々の業務遂行において直面する課題に対して「判断と決断を行うこと」。判断は、必要な情報が手元に揃えば可能だが、そのためには必要な情報が手元に届けられる仕組みを整えなければならない。一方、決断は、胆力と時宜が問われるものであり、必要な情報がなくても的確に行わなければならない。そのためには、「ぶれない軸を持っていること」が前提になる。時々、これを強情や意固地と取り違えている例がみられるが、もちろんそれらとは異なる。
わたしが観察していて素晴らしいなと思うリーダーは、上記のことがすべて淀みなくできています。ただし、事例は少ないですが。
一方で、問題があるなと思うリーダーは、上記のどれかが欠けている、のではなく、すべてにおいてまったくダメか、どれも中途半端で欠陥が目立つか、です。もちろん、わたしの顧客でない方には、そんなことを思っても直接お伝えはしません。
経営者の方々は、自らの欠陥に自分で気づくしかありません。一方、みなさんの会社の中間管理職の方々については、適切なかたちで気づきを与えてあげて、未熟な能力を伸ばすように働きかけていただきたいと思います。日常の業務に沿ったかたちで訓練されていく工夫があれば、リーダーとしてのスキルは伸びていくでしょう。誰も教えてあげずに放置するから、「罰ゲーム」だと思われてしまうのではないでしょうか。
あんなリーダーになりたい、とリスペクトされるような人材が出てこない会社は、やはり将来危ういです。