中国の気球に思う、判断軸と決断力

最近まで話題だった中国の気球の話で、わたしは心底、日本の防衛におけるインテリジェンスの低さにがっかりさせられました。

ご承知のとおり、この件の話題性がにわかに高まったのは、米国本土上空で正体不明の気球が確認されたときでした。米国政府は間髪を入れずにこれが中国のものであると断定し、しばらく監視したのち、大西洋沖に出たところで戦闘機によって撃墜、残骸を回収しました。そのうえで、気球に実装されていた機器類をくわしく調べたようですが、当然ながら詳細はあまり公表していません。

その話がホットになった直後、実は日本の上空で、3年も前から同様の物体が複数回にわたり目撃され、テレビカメラにも捉えらえていたことが報じられました。いずれの際にも、わたしの知る限りでは当時大きく報じられることもなく、政府が憂慮している様子も問題として認識しているアナウンスも、公式にはなかったように記憶しています。

ところが、今回米国が即座に撃墜したことを知ってなのか、政府は急いで法整備を始めて、同様の飛行物体を場合によっては撃墜可能なようにしたといいます。さらに、中国に対して当時の飛来物を踏まえて、領空侵犯として厳重抗議したとも報じられました。

なんという情けない話かと思ったのは、わたしだけなのでしょうか。どのマスコミも言及しないのが不思議でなりません。万一これが、そもそも自衛隊のレーダーにさえ捉えられておらず防衛上の検知もされていなかった事態だったとしたら、それこそ大問題だと思うのですが。少なくとも、中国には日本の諜報能力はこの程度かと思われたに違いないと思います。

そんなことを思っていたところで、米国のバイデン大統領がウクライナの首都キーウを電撃訪問したというニュースが流れました。

報じられているところによれば、米国政府は数か月前から極秘に訪問を計画し、現在の戦況、および米軍が駐留していないウクライナへの訪問ということを踏まえて、細心の注意を払って渡航を計画したとのことです。同行者は必要最小限、報道記者も限定し、情報漏えいが間違いなく発生しないように対策が徹底されたといいます。そのうえで、米国から19時間かけてキーウまで移動し、ゼレンスキー大統領との会談を果たしました。

世界の要人の中でもその多忙さと安全確保の要求レベルでは群を抜くであろう米国大統領で、かつ80歳という高齢のバイデン氏が、事前にロシアに通告までしたうえで、片道19時間もかけてウクライナに赴くという決断をするのだとしたら、そこには確固たる意図と信念があったに違いないでしょう。

翻って我が国の総理はどうか。先日見たニュースでは、政府は昨年からウクライナへの訪問を模索してきながら、現地の戦況の不安定さや国会日程でタイミングをつかめずに来たといいます。日本の総理大臣も超多忙であると想像しますが、米国大統領より制約が多く忙しいのかとなると何とも言えないところです。行けない理由ならいくらでも出てくるでしょうが、万難を排除してでも行くとしたら、そこには確固たる判断軸と信念が必要なのだと思います。

いつも思うのですが、米国の行動に追随することが多い日本において、彼らの真似をするのならその行動自体ではなく、その判断プロセスや行動に至る考え方、またそれを実現している体制のほうであると、わたしは考えます。

判断軸を自らに持ち合わせていなければ、適時的確な決断はできません。資金を投じて防衛力を高めようとも、自らに判断軸がないのなら、決断し行動をとることはできず、持ち合わせている能力も宝の持ち腐れになります。誰に何を言われようが自分はこうする、何か言われたらこう説明する、そういう行動がとれるには、確立された独自の判断軸が不可欠です。これは、おカネがあるのかどうかは関係がない、意識の問題です。

これはビジネスの世界でも、同じ話が当てはまると思います。タイムマシン経営なのはよいですが、真似をするのなら、ビジネスモデルをそのまま持ってくるのではなく、その考え方や判断軸、彼らの実行体制のあり方など、より本質を見ようとする努力が重要ではないでしょうか。事例が大好きな日本の経営者はたくさんいます。そういう人はたいてい、そっくり同じことをしようとします。何を使っているのか調べて、同じものを買おうとします。しかし、盲目的にマネているだけでは、いつまでも師匠に追いつくことさえできないのです。