「表現力」がビジネスシステムの根源

昨年は幸いにも多くの企業様と出会い、支援させていただく機会にも恵まれました。

世間では「DX」ということばが流通し、一般の企業でも随分トピックに上がっていたように感じました。ただ、わたしが実際に支援をしていて一番感じたのは、デジタルの活用力がどうなのかではありません。「”表現力” がそもそも根本的に大事な力だな」ということでした。

表現力というと、なんともアートな世界に思えるかもしれませんが、実のところどんな企業でも、普段のシゴトの中で使わなければならない能力です。社長が経営方針を発表する、今期の売上に直結する事業企画をプレゼンする、顧客に対応を行った経緯を社内で説明する、トラブルの原因を分析してまとめる。あらゆる立場の人が、あらゆる場面で必要とするのが、表現力です。

表現力が乏しいと、周囲には理解してもらえません。根を詰めて考え抜いた思考も、他人に伝わりません。本当は的を射た良いアイデアであっても、理解できません。大事なことを定めて周囲と意思統一したくても、気持ちをひとつにできません。ほかの人にやってほしいことがあっても、うまくやってもらえません。

表現力のようなアナログな話と、ITを扱うデジタルな話は、まったく別世界のことに思えます。しかし、ことビジネスシステムにおいては、企業が何を達成したいのか定められたところに、あるべき姿のデザインが行われます。そこで、情報を基にしたビジネスロジックが設計されます。そうしたデザインを経て初めて、役に立つシステムが具体化されるものです。

そうであるとすると、そもそも根源にあるのは、「何をしたいのか」「何がなされるべきなのか」ということですが、それは誰かによって「表現」されないと、日の目を見ることはありません。日の目を見ないということは、根源が生まれないことになるわけですから、何も起こらない、ということです。

当たり前のことに聞こえるかもしれません。しかし、「何をしたいのか」「何がなされるべきなのか」がどれだけうまく表現できているか、そこで差がついているケースが非常に多いように思えたのが、わたしが昨年中の支援を通じて最も感じたことでした。

ぼんやりとしかイメージがない物事を言葉で表現する、まだ具体化できていない内容を図式で表す、課題の根源を探るためにからくりを見える化する。こうした表現力があるかないかは、企業の組織力さえ左右する極めて貴重な能力だと思います。

わたしも他山の石とすべきことですが、経営者のみなさんもまた、ご自身また社内の人たちの表現力を一度見つめなおし、また磨く機会を豊富に設ける取り組みをされてみてはいかがでしょうか。みなさんの会社の社員は、他人が抱えているモヤモヤをスイスイ図式化できますか?ご自身がつくる経営会議の資料は、気づけば文字だらけで、誰にも読んでもらえそうにないものに仕上がっていませんか?図や表は書いてみたけれど、レイアウトや言葉が稚拙で何が言いたいのかよくわからないことはありませんか?

組織の表現力がいまより倍増するだけで、決して大げさではなく、会社のビジネスシステムのあり様が大きく変化するかもしれません。

新年にあたり、わたし自身も改めて心掛けていきたいと考えています。